給特法は「定額働かせ放題」を許すという誤った解釈

 

 

違法な労働時間管理手法による長時間労働

 

はじめに 事態改善に逆行する動き

1 時間外勤務を制限する給特法

2 時間外勤務の上限設定の法的根拠

3 給特法と三六協定

4 「在校等時間」という虚偽

5 自己申告方式による労働時間改竄

 


 

はじめに 事態改善に逆行する動き

 

 ここ数年、異常なほどの時間外勤務など、学校の教員の労働環境の劣悪さがひろく認知されるようになった。しかしながら、文部科学省は勤務時間管理に関する50年来の違法不当な運用方針を撤回せず、それどころか拡大強化している。茨城県教育委員会はそれに追随し、時代に逆行する措置を取った。すなわち、簡易タイムカード方式(「きんむくん」)による出退勤記録を廃止し、2023(令和5)年度から完全な「自己申告」方式に転換した。時間外勤務の上限が月間45時間とされていて、それに抵触すると「指導」対象となるのを嫌って、実際よりかなり早めの退勤時刻を入力する虚偽申告が常態化している。さらに今後、時間外勤務の内容について制限が加えられ、実際には勤務しているのに勤務外と入力するよう求める圧力が強まることも予想される。事態は改善されるどころか、逆行現象が起きている。

 長時間勤務の主要な原因として、部活動指導業務が注目され、スポーツ庁が改善策を講ずるに至った。茨城県教育委員会はそれに追随し、従来の黙認方針から一定の規制実施へと転換する姿勢を見せた。ところが、それを茨城県高等学校野球連盟が妨害して頓挫させる異常事態が起きている。ここでも改善が進まないどころか、それへの反対圧力が強まる逆行現象が起きている。

 学校教員の勤務条件の劣悪さ、とりわけ長時間勤務について、それが「給特法」に原因があると主張する運動が、SNSを通じてかなりの盛り上がりを見せた。しかし、その声は事態解決の方向ではなく事態の固定化、それどころか一層の悪化をもたらす方向に利用されそうな趨勢である。

 部活動指導業務に法的根拠がないことについては、別ページで検討することし、ここでは、労働時間管理手法それ自体の問題性を指摘する。その際、給特法についての混乱した認識の整理も試みる。

 

1 時間外勤務を制限する給特法

 「正規の勤務時間を超えて勤務させる」ことを限定する給特法

 「給特法きゅうとくほう」、すなわち、公立の義務教育諸学校等の教育職員の与等に関する別措置(昭和46年法律第77号) について検討する。給特法は2019(平成31)年に改正され、学校における労働条件に与える影響が変化したが(おおむね労働条件を悪化させる要因の増大)、まず1971(昭和46)年の施行から改正時点までの給特法の実施状況を見る。

 給特法は全7か条のきわめて短い法律である。そのうち3か条を引用する。注1

 

 

(趣旨)

第一条 この法律は、公立の義務教育諸学校等の教育職員の職務と勤務態様の特殊性に基づき、その給与その他の勤務条件について特例を定めるものとする。

(教育職員の教職調整額の支給等)

第三条 教育職員(校長、副校長及び教頭を除く。以下この条において同じ。)には、その者の給料月額の百分の四に相当す額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。

 2  教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。

(教育職員の正規の勤務時間を超える勤務等)

第六条 教育職員(管理職手当を受ける者を除く。以下この条において同じ。)を正規の勤務時間(一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律(平成六年法律第三十三号)第五条から第八条まで、第十一条及び第十二条の規定 に相当する条例の規定による勤務時間をいう。第三項及び次条第一項において同じ。)を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。 

 2  前項の政令を定める場合においては、教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がされなければならない。

 3  〈略〉

 

 第1条の「教育職員の職務と勤務態様の特殊性」は教員の労働条件の根本的規定要因となっているロジックであり十分に検討する必要があるのだが、本稿ではこの点については本稿6節で少し触れるにとどめる。給特法が具体的に規定するのは、公立学校の教諭・実習助手・講師等の「教育職員」について、① 正規の勤務時間を超えて勤務させることができるのは政令・条例で定める場合に限る、② 4%の「教職調整額」を支給する、③ 時間外勤務手当・休日勤務手当は支給しない、という3点である。

 第6条第1項の「政令で定める基準」は、次のとおりである(公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間をえて務させる場合等の基準を定める政令(平成15年政令第484号))(以下、超勤政令)。

 

一 教育職員(法第六条第一項に規定する教育職員をいう。次号において同じ。)については、正規の勤務時間(同項に規定する正規の勤務時間をいう。以下同じ。)の割振りを適正に行い原則として時間外勤務(正規の勤務時間を超えて勤務することをいい、同条第三項各号に掲げる日において正規の勤務時間中に勤務することを含む。次号において同じ。)を命じないものとすること。

二 教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。

 イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務

 ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務

 ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務

 ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務 

 

 第1項の「勤務時間の割振り」は実際上の要注意点なのだが、本稿では触れることはできない。

 給特法第6条第1項では「正規の勤務時間を超えて勤務させる場合」となっているのに、超勤政令では「時間外勤務を命ずる場合」と言い換えてある。

 この「基準」に従って、茨城県の場合でいうと、「義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置に関する条例(昭和46年12月22日、茨城県条例第55号)」(以下、給特条例)が制定された。注2

 次はその第7条である。

 

 

(義務教育諸学校等の教育職員の正規の勤務時間を超える勤務等)

第7条  義務教育諸学校等の教育職員については,正規の勤務時間(職員の勤務時間に関する条例(昭和26年茨城県条例第40号)及び市町村立学校県費負担教職員の勤務時間に関する条例(昭和46年茨城県条例第56号)に規定する勤務時間をいう。この項において同じ。)の割振りを適正に行い原則として時間外勤務(正規の勤務時間を超えて勤務することをいい,休日(給与条例第17条の規定により休日勤務手当が一般の職員に対して支給される日をいう。)において正規の勤務時間中に勤務することを含むものとする。次項において同じ。)は,命じないものとする。

 2   義務教育諸学校等の教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は,次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとする。 

 (1) 校外実習その他生徒の実習に関する業務 

 (2) 修学旅行その他学校の行事に関する業務

 (3) 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務

 (4) 非常災害の場合,児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

 3 義務教育諸学校等の教育職員の宿日直勤務については,従前の例によるものとする。

 

 給特法では「正規の勤務時間を超えて勤務させる場合」、超勤政令では「時間外勤務を命ずる場合」、というように文言に差異があったが、給特条例は超勤政令の文言を使っている(ただし、超勤政令第1項では「を命じない」だが、給特条例では「は、命じない」と異なっている)。例によって文科省が条例案の雛形を作って日本中の教育委員会に示したからであるが、こうして紛議の種が撒かれた。以下、本稿では法律条文における本来の文言である「正規の勤務時間を超えて勤務させる場合」をもちいる。

 

 給特法それ自体が「長時間労働」の原因だとする見解

 「正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限る」と規定する給特法について、教員の長時間労働の原因だとする見解がある。「給特法のこれからを考える有志の会」注3 は、2022年4月に自由民主党、2023年3月に文部科学省に提出した「要望書」で次のとおり主張している。注4

 

 給特法は、1966年の月残業時間が8時間程度だったことを根拠に、月給4%の教職調整額を支払う代わりに「教員には残業代を支払わない」と定めました。文部科学省によると、現に発生している超勤4項目以外の残業は、それが校務分掌に基づいた義務的なものであったとしても、「教員の自発的な勤務である」とみなされています。 

 給特法は今や「定額働かせ放題」「やりがい搾取」とも呼ばれており、教育現場の負の象徴となっています。給特法により、いかに長時間労働が発生しても残業代支払いというコストに反映されないため、使用者側の業務削減への本気度が低くなり、長時間労働が蔓延する元凶となっています。長時間労働を是正するため、ひいてはより質の高い教育を子どもたちに提供するため、給特法の抜本的見直し(廃止を含む)を求めます。

 

 「定額働かせ放題」というスローガンは、「教職調整額」は「超勤4項目」以外も含むすべての「残業」に対する〝支払い〟であるという判断を前提しているようである。給特法が「教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限る」と規定したうえで、超勤政令・給特条例が「時間外勤務を命ずる場合は,次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限る」と規定していることと、法の規定に反する運用がされていることとを峻別せず、それどころか取り違えたうえで、〝給特法は今や「定額働かせ放題」「やりがい搾取」〟であると主張し「給特法の抜本的見直し(廃止を含む)」を要望している。なお、「廃止」でない場合の「給特法の抜本的見直し」の具体的内容は判明ではない。

 この給特法解釈は、「有志の会」のメンバーである内田良りょう教授のものである注5。法の規定そのものと、それに反した運用とを混同して議論を展開するようでは、「法律論としての精確性を欠いている」注6と批判されてもやむをえないだろう。「教育社会学者」の内田教授は、『法学セミナー』の座談会(2019年3月20日実施)で、「私は、法律については素人です」と言っている。注7

 「有志の会」は、「要望書」提出に先立って実施したオンライン署名で、次の要望を掲げていた。注8

 

【求めること:給特法を抜本改善して下さい!】 

公立教員も労働者です。 

すでに立法事実の失われた給特法という特別措置法は大幅に見直し、他の職業と同じように、労働基準法を全適用して下さい。 

●一日8時間労働が守られる ●やむを得ずそれを超えた場合は、残業代等が支払われる ●残業上限は絶対に超えない。超えた場合は管理職が罰せられる 

こういったことを公立教員にも適用してもらいたいという事です。 

国立大附属教員・私立教員はすでに給特法の対象外で、労基法が全面適用されています。 公立教員も給特法なしの運用が不可能であるはずがありません。

 

 給特法を「抜本的見直し(廃止を含む)」すれば、それだけで「労働基準法を全適用」することになるという勘違いがある。地方公務員法第58条が労働基準法の一部を適用除外ないし「読み替え」しているので、「公立教員」に「他の職業と同じように、労働基準法を全適用」するためには、給特法の「抜本的見直し(廃止を含む)」に加えて地方公務員法の「抜本的見直し(廃止を含む)」が必要である。その際には、「均衡」を図る必要があるから国家公務員法の「抜本的見直し(廃止を含む)」も不可欠である。「私立教員はすでに給特法の対象外」というのも不正確で、もともと給特法の対象外である。

 また、「一日8時間労働が守られる」「やむを得ずそれを超えた場合は、残業代等が支払われる」「残業上限は絶対に超えない。超えた場合は管理職が罰せられる」というのは、労働基準法の規定について言っているのか、それとも運用実態について言っているのかよくわからないが、運用実態について言っているのだとすると認識が甘いし、規定についてなのだとすると、給特法については運用実態をもって、法律それ自体を断罪して見せるのと正反対の態度であり、辻褄があわない。また、「労働基準法」として、第32条・第37条・第119条だけを漠然と思い浮かべるだけで、その後の度重なる「改正」によって付け加えられた膨大な条項による原則逸脱についてはまったく考えていないようである。今日の労働法体系についての認識としては、あまりにも夢想的だろう。

 なお、地方公務員法が適用除外している法律は他にもある。労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第92条の適用除外により、地方公務員については労働基準監督機関(厚生労働省労働基準監督署)の監督がなされず、名前だけの独立委員会のもと都道府県庁や市区町村役場で首長部局の職員が交代で担当する人事委員会事務局や人事担当職員による監督懈怠けたい体制がとられ、学校における夥しい違法状態が漫然放置されている。

 なにより重要なのは地方公務員法第58条第1項により、労働組合法(昭和24年法律第174号)、労働関係調整法(昭和21年法律第25号)、最低賃金法(昭和34年法律第137号)が適用除外されていることである。労働基準法と労働安全衛生法が一部適用除外であるのに対して、全部適用除外である。労働組合に替えて「職員団体」結成は許されるが、組織上のさまざまの制約を課せられたうえ、当局との間で団体協約を締結する権利が剥奪され(第55条)、争議行為も禁止される(第37条)。このように日本国憲法第28条が保障する基本的人権が大きく制限される状況は、「労働基本権の一部制限」と言われるのだが、周辺的部分ではなく根幹部分の制限剥奪であり、きわめて深刻である。

 さらに、地方公務員法第57条は、公立学校の教職員について、「その職務と責任の特殊性に基づいてこの法律に対する特例を必要とするものについては、別に法律で定める」としている。「別に」定められた教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)の規定(第4章 研修)によって、職務遂行に対する使用者の強い介入を受ける。地方公務員法による人権侵害は、労働分野にとどまらず「政治的行為の制限」など職務外の基本的人権の侵害にも及ぶ。注9

 給特法それ自体が長時間労働の原因だとする主張は、これらのことをほとんどすべて度外視する単純素朴な言説として訴求力を昂進させたのであるが、その単純さが給特法をめぐる議論に混乱を招くこととなる。

 

 時間外勤務を教員の「自発的行為」とみなす詭弁

 給特法をめぐっては、数々の解釈上の問題がある。

 公立高校においては、「限定4項目」以外の業務のための時間外勤務・休日勤務(時間外勤務の一種)が常態化している。すべての教員の勤務実態が所定勤務時間内におさまっている学校は日本中探しても一校もないだろう。それどころか、休職中の教員を除くすべての教員の実際の勤務時間は所定勤務時間を超過しているだろう。このような給特法違反状況が一般化している原因が、給特法それ自体にあるとはいえない。それでは、このような給特法違反状況の一般化はいかにしてもたらされたのか。

 校長が、労働基準法および給特法・超勤政令・給特条例が定めるとおりに勤務管理をおこなっていれば、時間外勤務はさほど多くなることはなく、すくなくとも長時間勤務が常態化することは到底ありえない。しかし、このような状況は、特定の都道府県や特定の高等学校に限ったことではなく、全国的に共通して見られる現象である。そうなると、文部科学省が労働基準法および給特法の規定に反して教員を正規の勤務時間を超えて勤務させることを容認、それどころか奨励する方針を取り続けてきていることがその有力な要因であると推測するのが妥当である。

 ここから文部科学省が作成した文書を直接参照し、給特法の規定に違反して正規の勤務時間を超えて勤務させるために繰り出される、詐略ともいうべきレトリックを具体的に摘示する。それらは自家撞着に満ちたものでありながらも、中心的動機と目的は給特法を含むさまざまの法律を蹂躙して教員の権利を抑圧し、労働条件改善を回避することにある。労働基準法および給特法について定着している解釈はほとんど偽りのものである。誤った読解による誤解を回避するために、そのつど原文にあたり、できる限り引用して検討する。

 次は、文部科学省の内部組織である中央教育審議会(中教審)の「初等中等教育分科会 学校における働き方改革特別部会」が作成した「答申」(2019年〔平成31〕1月25日)中の記述である(第6章 教師の勤務の在り方を踏まえた勤務時間制度の改革 1.給特法の今後の在り方について、44頁)。注10

 

○ 本制度〔給特法〕の下では,所定の勤務時間外に管理職の時間外勤務命令に基づいて教師が業務を行うのはいわゆる超勤4項目に関する業務の場合のみであって,それ以外の業務を行う場合は,〔給特法制定〕当時から,教師の自発性・創造性に着目し,教師が自らの判断で「自発的」に勤務しているものと整理されてきた。こうしたことから,給特法のために,学校の勤務時間管理が不要であるとの認識が広がり,また同時に教師の時間外勤務を抑制する動機付けを奪い,長時間勤務の実態を引き起こしているとの指摘がある

○ この点に関し,学校や教師をめぐる状況が当時から大きく変化する中,こうした「自発的勤務」は,管理職からの超過勤務命令の下で行っているものではないものの,そのほとんどが,教師が自らの校務分掌等を踏まえて実施しているものであり,それぞれの 教師としては業務としてやらなくてはならないものとの意識から行っていることが実態となっている。加えて,教員勤務実態調査の結果によると,所定の勤務時間外に行っている業務としては超勤4項目に関する業務以外のものがほとんどであることが明らかになっている。

 

 「整理されてきた」とか、「実態となっている」などと、他人のせいか自然の成り行きだといわんばかりにのらりくらりと誤魔化しているが、「超勤4項目」以外の時間外勤務は、教員が自発的におこなっているものであって校長の命令によるものではない、とするのが文部科学省初等中等教育局の基本的な考え方であり、それをそのまま認めるのが中教審「学校における働き方改革特別部会」の立場である。

 傍線部は「有志の会」などの論調を気にしているのだろうが、反論することも認めることもせず他人事のように聞き流すだけである。

 

 中央教育審議会における「審議」の内幕

 これは、2017(平成29)年7月以来の合計21回の会合での検討を経たもののように見えるが、そうではない。第3回の会議(2017年8月29日)において、「早朝の登校指導や夜間などにおける見回り等」の「超勤4項目」以外の業務についての討議のなかで、部会長として司会をつとめる小川正人まさひと委員(教育学者、放送大学教養学部教授)が、川田琢之かわた・たくゆき委員(労働法学者、筑波大学ビジネスサイエンス系教授)に、敢えて「労働法の観点から」と注文したうえで意見を求めた。注11

 

【小川部会長】〔……〕もう一人,川田委員,よろしくお願いします。川田委員は労働法の御専門なわけですけれども,例えば先ほど事務局から説明のあった登下校とか夜間見回りなどというのは,これは勤務時間外で行われているわけですけれども,こうした超勤4項目に該当しないようなこれらの業務に教員が従事する場合,これをどのように考えればいいのか,労働法の観点から,そうしたことも含めて少し御意見いただければと思います。よろしくお願いします。

【川田委員】〔……〕労働法上の労働時間に関する議論の観点からどういうふうに見えるだろうかということですが,基本的には今言ったような,問題となる活動が業務としての性質をどれだけ強く持っているのか,それから使用者,この場合には各学校の管理職ということになるかと思いますが,個々の教員に対してどういう働きかけが行われているのかという2つの観点から見ていくということになると思います。〔……〕私が見るところでは,これらの活動というのはいずれも教員が本来行う業務そのものか,かなりそれに近いものではないか,例えば登下校の見守り,あるいは生徒の夜間等の見回りというのは,生活指導の一部あるいはそれと密接に関連した活動であるというように,一つ一つ見ていくと,業務としての性質をそれなりに強く持っているのではないかと思います。そのようなケースについては,民間企業の労働法の事件における裁判所の判断などを見ますと,使用者の働きかけの程度というのはかなり弱いものでも構わない。業務としての性質が強いものについては,〔……〕ある特定の活動をしていることを使用者側で認識していて,特に止めていなかったというケースでは,労働時間に当たると判断されることが多いと言えます。

 

 川田委員の発言は「答申」中の判断とは完全に対立する内容である。川田委員は独自の見解などを述べているわけではない。15名の委員中唯一の労働法の専門家として、判例の一般的動向について説明したのである。川田琢之を委員に据えた文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課と、部会の取り仕切り役の小川正人は、川田が文部科学省の主張を擁護してくれると思っていたのに期待を裏切られ、狼狽したかと思えるが、そんなことはない。

 「学校における働き方改革特別部会」の会議は、事務方の初等中等教育企画課が議題を用意するのだが、この第3回では登下校指導、放課後夜間の見回り・補導、徴収金の管理、給食指導、清掃、部活動など11の業務について、もうひとつの「緊急提言」の採択とあわせてわずか2時間で検討する段取りにしていた。当然時間は足りず、はじめの方で時間を使ってしまい、最大の問題である部活動などはほんの御座なりの扱いで終わった。この日、初中教育企画課が求めたのは、それらが学校教員が担うべき「専門性を発揮できる業務」かどうかについて話し合うことだった。ほかの委員は事務局の思う壺に誘導され、口々にそれらの業務の教育的意義について熱弁を奮った。「放課後・夜間の見回り」の件になった時、司会の小川正人が、「超勤4項目に該当しないようなこれらの業務に教員が従事する場合,これをどのように考えればいいのか,労働法の観点から……御意見いただければ」と川田琢之に尋ねた。初等中等教育企画課が用意した課題は特定の意図のもとに仕組まれたものなのだが、ここで小川はわざと筋を外した「労働法の観点」を持ち出し、場違いの噛み合わない話に誘導したのである。

 初等中等教育企画課と小川正人は、川田がどのような発言をするのかもわかっていた。小川正人は、10年ほど前、中教審初等中等教育分科会の「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」の臨時委員だった時(この当時は東京大学教育学部教授)注12 「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」の第8回会議(2006〔平成18〕年11月10日)で、初等中等教育局財務課が「資料5 教員の職務について」を配布し、次のとおり説明した。注13

 

現行制度上では、超勤4項目以外の勤務時間外の業務は、超勤4項目の変更をしない限り、業務内容の内容にかかわらず、教員の自発的行為として整理せざるをえない。このため、勤務時間外で超勤4項目に該当しないような教職員の自発的行為に対しては、公費支給はなじまない。

 

 川田はこれを問題視し、第10回会合(2006〔平成18〕年12月11日)で発言した。注14

 

【川田委員】〔……〕実態としては、現状で超過勤務がないから超過勤務手当を払わないという制度設計はあまりにも実態とかけ離れ過ぎているのではないか。前々から言っていますが、どうもこの研究会〔このワーキンググループのこと〕の中で、時折明確な職務命令に基づかないようなものは自発的に行われる行為であって、超過勤務とは呼べないというような認識が示されることがあるわけです。公務員法的な法律の根拠がなければ適当な活動はできないという発想からいくとそうなるのかもしれませんが、他方で、労働法的な観点から考えますと、もとになる命令とか労働が違法だったから労働者が保護されないというのは明らかにおかしいわけで、むしろ勤務の実態から見ていく。
 そうすると、実際、最近の、これは労働基準法の解釈にかかわるものですが、下級審裁判例なんかを見る限り、こういう教員の超過勤務みたいに所定外に所定内と同じような活動を労働者が引き続き行っているようなケースで、残業命令がないからその時間は労働時間ではなくて割増賃金を払わなくていいというような主張は、ここのところの下級審の裁判例を見る限りはまず成り立たない。ある程度、実態として使用者側が認識できるような形で労働者側が自発的な形で時間外に労働している場合であれば、幾つかケースはありますが、明確に残業禁止というような命令でも出していない限りは、まず労働時間と判断される傾向があるということで、そういう労働法的な評価はある程度、教員の問題を考えていく上でも意識すべきだと思います。あるいは、その実態から見ても、教員が時間外にやっていることを法的に超過勤務と評価できないとは言いにくいような状態にあるのではないか。

 

 中教審に限らないが、行政機関が内部に設置する「審議会」は、外部の第三者である有識者に検討事項を「諮問」して検討をお願いし、その検討結果を「答申」していただく、というようなものではない。各省庁の各部局各課が事務局となり、委員を人選したうえで、毎回の会合のそのつど原案となる文書とそれについての資料を作成し、2時間ほどの日程のうち3分の1程度を費やしてじっくりと説明してから検討を求める。しかし、司会があらかじめ指名した順に発言するので、噛み合った議論にはならない。時たま原案について批判的な意見が出ると、事務局の役人がしゃしゃり出て来て「ございます」調で慇懃無礼に反論し、委員同士の討論はさせない。中間答申や最終答申は、いつでもすでにあらかじめ事務局が原案を用意する。修正意見が出ても、事務局の課員が取捨選択のうえせいぜい少々字句訂正する程度で、根幹は微動だにしない。優れた業績のある有識者委員を差し置いて、事務局の素人役人が尊大に振る舞う。委員中ただひとりの労働法の専門家が「あきらかにおかしい」「まず成り立たない」と断言したのであれば、ふつうなら初等中等教育局の主張は完全にアウトであるが、そうはならないのが中教審である。

 中央教育審議会が、初等中等教育局の各担当課の役人の望むとおりの答申しかしない例を挙げる。学習指導要領の改訂に関する審議では、各学問領域の専門家については大学当局か教授会に人選を依頼するらしく、かならずしも迎合的でない教授らが委員になり(若手の研究者が審議会出席で時間を浪費するのを避けるため、副学長や学部長が自ら買って出るのかもしれない)、拙劣な原案に対する根本的な批判が提起される不測の事態が起きたりする。「中央教育審議会」の下部組織の「社会・地理歴史・公民ワーキンググループ」による次期(=現行)学習指導要領案の審議の際には(2015年12月7日の第1回から2016年6月13日の第14回まで)、著名な研究者の大半がそれぞれの専門分野に関連する内容について、部分修正どころではない根本的な書き直しをもとめているのに、それらを全部無視して、事務局の素人課員がつくった稚拙な学習指導要領案がそのまま文部科学大臣あてに「答申」された。注15

 川田委員が文部科学省公認の「自発的時間外勤務」論を批判したのは、部会長の小川正人や事務局の初中局財務課の役人たちにとっては、寝耳に水だったわけではない。何を言うかはわかったうえで発言させ、予定どおり黙殺したのである。初等中等教育企画課と小川正人は、川田を計略に嵌めたのである。労働法学の有力説であろうが判例の一般的動向であろうが、それらを全部聞き流し、不適切な時間外勤務の取り扱い手法についてはまったく問題にすることなく、あらかじめ決めておいたとおりに一年単位の変形労働時間制などを「答申」した。文部科学省初等中等教育局は、自分で作った原案どおりの中央教育審議会からの「答申」に依拠して給特法改正案を作成し、内閣提案法案として国会に提案して2019年12月に成立に漕ぎ着けた。

 

2 時間外勤務の上限設定の法的根拠

 給特法第7条の規定にもとづく「業務量管理指針」

 改正された給特法は、地方公務員法第58条の「読み替え」規定を変更することで一年単位の変形労働時間制導入を可能にし(第5条)、あわせて「業務量の適切な管理等に関する指針」の作成公表を文部科学大臣に義務づけた(第7条)。文部科学省は、2020(令和2)年7月17日に、この「業務量の適切な管理等に関する指針」としての「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針(令和2年文部科学省告示第1号)」注16

 そして、この業務量管理指針を補完する文書として、「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針に係るQ&A(令和3年6月時点)」(以下、「Q&A」)を作成し、都道府県・指定都市教育委員会に2021(令和3)年6月21日づけ「事務連絡」文書で通達した。注1

 地方公務員の労働条件については国の法律で全国一律に直接決定するのではなく、雇用者ごとにすなわち都道府県市区町村ごとに、条例で定めることになっている。たとえば、県職員の給与については県議会が制定した条例によって規定される。毎年の給与額の変更は、県内の民間給与の実態調査のうえ、国家公務員の給与に関する人事院の「勧告」を考慮した県人事委員会の「勧告」にもとづいて県議会が議決することで実施される。〝公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等についての特別措置〟についても、まず1971(昭和46)年に給特法が制定され、それと超勤政令を前提にして、文部省から示された案文どおりの条例を、都道府県議会がそれぞれ制定して決定したのである。財政だけでなく、国からの「天下り」人事、画一的条例制定の誘導などにより、地方自治体は中央政府の直轄支配体制に組み込まれていて、〝地方自治〟はかなり形骸化している。とりわけ小学校から高等学校までの地方教育行政は、徹頭徹尾、文部科学省初等中等教育局の統制下にあるといってよいだろう。

 給特法第5条の改正によって、「一年単位の変形労働時間制」が全国の「公立の義務教育諸学校等の教育職員」を対象としてただちに実施されるのではない。給特法の規定を前提にした都道府県条例が制定されて、はじめて実施されることになる。現在のところ(2023年6月)、北海道と徳島県で条例が制定されたが、それでも各学校における実施には至っていない。他の都道府県は経過観察中というところで、文部科学省の催促を受ける教育行政当局が条例制定の機会を窺っている状況である。

 その一方で、第7条新設による「業務量の適切な管理等に関する指針」に関しては、文部科学省が示した業務量管理指針をもとに、すでに各都道府県で教育委員会規則が制定された。茨城県の場合は、「茨城県県立学校の教育職員の業務量の適切な管理に関する規則(令和2年3月31日、茨城県教育委員会規則第5号)」(以下、業務量管理規則)である。注18

 業務量管理規則(茨城県教育委員会規則)が依拠した原典である業務量管理指針(文部科学省告示)の中心的部分の「第2章 服務監督教育委員会が講ずべき措置等」から引用する。

 

第1節 業務を行う時間の上限 

 (2)  上限時間の原則 

 服務監督教育委員会は、その所管に属する学校の教育職員の在校等時間から所定の勤務時間(給特法第6条第3項各号に掲げる日(代休日が指定された日を除く。)以外の日における正規の勤務時間をいう。以下同じ。)を除いた時間を、以下に掲げる時間の上限の範囲内とするため、教育職員の業務量の適切な管理を行うこととする。 

イ 1日の在校等時間から所定の勤務時間を除いた時間の1箇月の合計時間(以下「1箇月時間外在校等時間」という。) 45 時間

ロ 1日の在校等時間から所定の勤務時間を除いた時間の1年間の合計時間(以下「1年間時間外在校等時間」という。) 360 時間

 

 時間外勤務の「上限時間の原則」として、1か月あたり45時間、1年間で360時間という具体的数値が示されている。長時間労働が常態となっている日本社会にあっては、この程度だとたいしたことはないように見えるが、かなりの長時間勤務である。上限の場合、たとえば7時間45分の正規の勤務時間に2時間の時間外勤務が付加されて総勤務時間が9時間45分となり、始業時刻8時30分から休憩時間をはさんで、2時間分後ろにずらされた終業時刻の19時00分まで、10時間30分勤務することになる。そして、これが年間に180日あるというのが「360時間」である。年間の勤務日はおおむね240日だから、180日はその3分の2である(20日の年次有給休暇を勘案すると比率はさらに高い)。

 この後見る「Q&A」の記述のとおり、「所定の勤務時間外に行っている業務としては『超勤4項目』に関する業務以外のものがほとんどであることが明らか」である。「超勤4項目」以外の業務は給特法の規定どおりであればゼロでなければならないのに、それを完全に無視したうえで、「超勤4項目」の業務と「超勤4項目」以外の業務とを合算して「360時間」まで違法に容認・奨励するのである。

 

 時間外勤務の「上限」設定の根拠はあるのか?

 文部科学省初等中等教育局は、都道府県市区町村教育委員会に対して、条例を制定したうえでこの数値「360時間」による教育職員の勤務時間管理を求めたのだが、法律に違反する行政行為を奨励指導強要する際に、どのような根拠理由を示したのか。

 次は、「Q&A」の「問1 本指針は、どのような趣旨で策定されたものか。」に対する回答である(○の中に段落がある場合も含め、○ひとつずつを1段落ということにする。この「Q&A」からの引用に限り、傍線は原文のもの。ゴシック体と〔〕内の注記は引用者)。

 

○ 平成30年7月に公布された働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律により、民間企業等については、時間外労働の上限規制が新たに規定されました。 

○ このような労働法制の転換を踏まえ、国家公務員については、人事院規則において超過勤務命令の上限時間が新たに規定され、地方公務員については、原則として労働基準法の適用を受けるとともに、国の人事院規則を踏まえ、各地方公共団体において、超過勤務命令の上限時間を条例や規則等で定めることとなりました。

○  公立学校の教師も地方公務員ですので、こうした条例や規則等の対象となるものと考えられます。ただし、公立学校の教師には公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下「給特法」という。)が適用され、所定の勤務時間外に超過勤務命令に基づいて業務を行うのはいわゆる「超勤4項目」に関する業務の場合のみとされていますので、それ以外の業務は、この条例や規則等の対象とはなりません。

○ 給特法の仕組みにより、所定の勤務時間外に行われる「超勤4項目」以外の業務は教師が自らの判断で自発的に業務を行っているものと整理されますが、学校の管理運営一切の責任を有する校長や教育委員会は、教職員の健康を管理し働き過ぎを防ぐ責任があり、こうした業務を行う時間を含めて管理を行うことが求められるものの、この時間については勤務時間管理の対象にはならないという誤解が生じているのも事実です。また、勤務時間を管理するという意識が希薄化し、長時間勤務につながったり、適切な公務災害認定が妨げられる事態が生じたりしているとの指摘もあります。

○ しかしながら、「超勤4項目」以外であっても、校務として行うものについては、超過勤務命令に基づくものではないものの、学校教育活動に関する業務を行っていることに変わりありません。そして、教員勤務実態調査の結果によると、教師の長時間勤務の実態が改めて判明した中で、所定の勤務時間外に行っている業務としては「超勤4項目」に関する業務以外のものがほとんどであることが明らかとなっています。

   なお、学校教育活動に関する業務とは、児童生徒等の授業をはじめとした教育活動のほか、教務、児童生徒指導、授業準備のために必要な教材研究、教材教具管理、文書作成処理などの事務、外部関係者との連絡調整、学校教育の一環として行われる部活動等が含まれます。

○ 文部科学省としては、平成31年1月に「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定しました。このガイドラインは、「超勤4項目」以外の業務も含めて、しっかりと勤務時間管理を行うことが、学校における働き方改革を進めるために不可欠なことから定めたものです。

○ 本指針は、当該ガイドライン〔指針に格上げされる前の、2019年1月策定の文書〕と趣旨を同じくするものであり、上記の条例や規則等では対象とはならない、「超勤4項目」以外の業務のための時間についても「在校等時間」として勤務時間管理の対象にすることを明確にした上で、その上限時間を示し、また、その実効性を高める観点から、給特法第7条にその根拠を置き、文部科学省告示の形式として定めることとしたものです。

 

 百遍読んでも意味が通じない。ひとつは、主体(文法上は主語)を隠していることによる。

 第3段落で「考え」、第4段落で「整理」するのは、いずれも文部科学省初等中等教育局である。助動詞「る・らる」で、自分の作為ではなく、客観的な見解であるかのように表現している。第4段落の「誤解が生じ」たり、「意識が希薄化」したり、「公務災害」の件で指摘したりするのは、誰なのかわからない。言っていることの趣旨もよくわからない。捜したところ、いずれもさきほどの中教審の「学校における働き方改革特別部会」の「答申」からの抜粋だった。注19

 「Q&A」の記述は、業務管理指針における時間外勤務の「上限時間の原則」の法的根拠は、改正された労働基準法第36条である、と言っているかのような印象を与えるが、そうではない。

 第1段落の「民間企業等」についての働き方推進法を「踏まえ」て、第2段落で、国家公務員についての人事院規則へ、そしてそれを「踏まえ」て労基法適用も受ける地方公務員についての条例・規則へ、そして第3段落で、「公立学校の教師」は地方公務員であるから「こうした条例や規則の対象となる」とつなげてくる。ところが、ここで「と考えられます。ただし」と話の腰が折られ、その条例・規則は、「公立学校の教師」の時間外勤務のほとんどを占める、「超勤4項目」以外の業務については対象ではない、とここまでの話が全部無駄になる。「誤解」・「意識が希薄化」・「指摘」の中途半端な話を挟んで、「超勤4項目」以外を無視するわけにはいかないとし、最後の第7段落で突然「超勤4項目」以外の業務も「在校等時間」として勤務時間管理の対象にする、ついてはその上限時間を示すことにした、と何の根拠もなく宣言する。

 法律で用いられていない日常語の「教師」を濫用している。

 給特法条文の「教育職員」は、第3条では校長、副校長及び教頭が除かれ、第6条では管理職手当を受ける者が除かれる。校長ら管理職とそれ以外の教職員との、立場と責任の違いを峻別する規定である。「教育職員」をわざわざ「教師」に置換し、しかもその「教師」が校長の職務であるはずの「校務」をおこなうとするなど、不正確で曖昧、支離滅裂である。「指針」に格上げされる前の「ガイドライン」においても全部「教師」で、当然その「Q&A」も全部「教師」だった。一応は法令の端くれとしての文部科学省告示である業務量管理指針ではさすがに「教育職員」に直してあるが、「Q&A」はタイトルだけ直して、本文は全部「教師」のまま残してある。

 このような調子で、はぐらかしと嘘や誤魔化しだらけであるが、教育委員会の管理主事や学校の管理職員らは、それこそ目を皿のようにしてこれを読み、そこに書いてある通りを鸚鵡返しにするのだから(さらに教育委員会の行政方針として模倣して踏襲する)、読み捨てることもできない。根拠も示さず嘘・誤魔化しだと言って済ますわけにもいかないから、逐一検討する。注20

 「Q&A」問1の第1段落の「法律」とは、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する律(平成30年法律第71号)」(以下、働き方推進法)である。あらたにひとつの法律が制定されたのではなく、すでにある他の法律(労働基準法、労働安全衛生法、地方公務員法など合計36の法律)の一部改正だけを内容とする法律なので、各種「六法全書」や e-Gov法令検索には登載されないが、厚生労働省のウェブサイトに載っている。注21

 労働基準法と労働安全衛生法の一部改正は、もともと全部適用除外される国家公務員は別だが、当然、地方公務員にも関係する。他の改正される法律も同様で、なにより地方公務員法も一部改正される。「等」とつけておけば何でもありで、対概念の地方公務員も対象であるものを「民間企業について」のものだと言うのは適切ではない(「在校」でない場合も含める「在校時間」も同様。後ほど出てくる)。

 働き方推進法は、労働基準法第36条の第2・3・4項を第7・8・9項に移し、第2・3・4・5・6・10・11項を新設したうえで、第36条第4項で労働時間延長の上限の数値を明文規定することになった(他の改正項目については、脚注21の「概要」参照)。これは「読み替え」ではなく、改正である。この労働基準法第36条の改正により、それに言及する法律の字句の変更が必要になることも、改正対象法律がたくさんある理由のひとつである。注22

 

 憲法における勤労の権利保障

 ここで、この労働基準法第36条第4項が、労働時間延長の上限の数値を明文規定したことの意味を確認しておく。業務量管理指針の分析の最中なのだが、日本の労働法制の根幹に関わることであるので、基本に立ち返って検討する。

 労働法制の根拠は日本国憲法第3章「国民の権利及び義務」の規定である。英文を併記して引用する。

 

第二十七条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

All people shall have the right and the obligation to work.

  ②  賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める

Standards for wages, hours, rest and other working conditions shall be fixed by law.

  ③  児童は、これを酷使してはならない。

Children shall not be exploited.

第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

The right of workers to organize and to bargain and act collectively is guaranteed.

 

 憲法の「勤労」、「勤労者」は、英語ではそれぞれ、work, workers であり、「労働」、「労働者」に相当する。勤労の権利、さらに団結権、団体行動権などは、個人 individual が生まれながらに持つ権利、すなわち基本的人権 fundamental human right、古風な言い方では「天賦人権」である。憲法はそれらを与えるのではなく、保障 guarantee する。憲法に先立つ権利であり、憲法によってつくりだされ、与えられたものではないのだから、下位の法律がそれらを制限し剥奪することはいかにしても不可能である。

 日本国憲法第27条が勤労は権利であり、同時に義務であるとしているのは、一見すると解りにくいのでここで簡単に触れる。国政 gevernment は、国民の厳粛な信託 sacred trust によるものである(憲法前文)。すなわち、政府 government とは、国民が預託した信託物 trust である。これが人類普遍の原理 universal principle of mankind であり、国民が勤労の権利 right を持ち、義務 obligation を負うことの理由である。すなわち、信託によって設立される政府 government のもたらす福利 benefit を享受する enjoy する(同)ためには、あらかじめ必要な原資を納税という行為によって預託しなければならないのだが、それは何者かから与えてもらうものではなく、みずからの労働によって生み出すものなのである。注23

 

 労働基準法における労働条件の原則

 日本国憲法第27条第2項の「勤労条件に関する基準」を定める基本法が労働基準法である。

 

(労働条件の原則) 

第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

 2  この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

 

 そして労働基準法第32条は、1日8時間・1週間40時間を法律上許される最長労働時間と定める。これを超えて労働させた使用者は刑事罰(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)を課せられる(第119条)。

 

(労働時間)

第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

  2   使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。 

 

 労働基準法がみずから宣言するとおり、時代的社会的制約のもとで決めたものであって、この「労働条件の基準は最低のもの」であるのだから、決して満足すべきものではない。1日に8時間、その中途に休憩時間がはさまり、さらに通勤時間を加えればかなりの長さになり、それが週に5日も続くとなると、すでにけっこうな負担である。

 それどころかこの最長の基準が、実際には最短の時間としての所定労働時間(勤務時間)として定められるのが当たり前になっている。所定労働時間を1分間でも割り込めば、有給休暇を消費するか、もしくは時給1時間分の減額、さらには「皆勤手当」の不払いというペナルティーを課されることになる。まさに最低基準としての最長労働時間のはずが、事実上は最短労働時間という最低!の基準になってしまっている。そういう意味では、使用者が最長労働時間8時間をそのまま所定労働時間とするのは、失当である。現在の公務員のように、7時間45分としたところで似たり寄ったりである。これは「最低の」基準としての最長労働時間なのであり、もっと短くてもよいのだから、労働基準法第32条がこのままだとしても、企業や官庁・学校は、当面1日7時間とか6時間、週35時間とか週30時間、さらには週休日を3日として、週28時間とか週24時間を所定労働時間として規定すべきなのである。

 

 労働基準法第33条と第36条による労働時間延長

 ところが、労働基準法は、この最低基準に例外を設ける。つまり最長労働時間の枠を緩めるという、第1条で宣言した趣旨に反したことをする。

 労働基準法第32条が定める最長労働時間を延長することができるのは、労働基準法第33条の事由に該当する場合と、労働基準法第36条により使用者と労働者が交渉のうえで両者が合意し、協定を結んだ場合である。(その他、ある期間の労働時間を延長した分を他の期間で減らして、総量は同じだということにする「変形労働時間制」があり、原則からの逸脱は際限がないのだが、本稿では触れることはできない。)

 ひとつめの労働基準法第33条の第1項と第2項は、次のとおりである。

 

(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等) 

第三十三条 災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。

  2  前項ただし書の規定による届出があつた場合において、行政官庁がその労働時間の延長又は休日の労働を不適当と認めるときは、その後にその時間に相当する休憩又は休日を与えるべきことを、命ずることができる。 

 

 「臨時」のものであるので、これにより時間外勤務・休日勤務が常態化することはない。ただし、重大災害の際には、「臨時」ではあっても数か月の長期間に及ぶこともありうるとされる。

 もうひとつが、労働基準法第36条の定める手続きによるものである。次は、働き方推進法による改正の労働基準法第36条第1項である(傍線は、このあと働き方推進法により訂正・削除される部分)。

 

(時間外及び休日の労働)

第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下 この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条におい て「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。

 

 使用者は、労働者の過半数代表と書面による協定をし、厚生労働省令で定めるられている事項を労働基準監督署に届け出た場合に、労働時間を延長できる。これが通称「三六さぶろく協定」である。延長された分はもちろん無償ではなく、その分の賃金ならびに第37条により割増賃金を支払わなければならない。

 

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 

 三六協定は各事業場単位で締結しなければならない。注24 なんとなくズルズルと時間外労働をさせてしまうのと比べれば、労働時間延長のハードルはかなり高い。

 とはいえ、これで第32条の最長労働時間規制が絵に描いた餅になったとまでは言わないが、黙っていても補償される最低基準だったものが、突然、成し遂げようとする目標になってしまった。たとえば、労働者が基本給だけではとても足りないので残業手当をあてにしなければならないとか、閑散期の解雇を避けるために繁忙期は無理して残業する日本的?風習だとか、あるいは労働組合が容易に残業に応ずるなどで、日本では労働時間延長は当たり前のような状況になってしまっている。特に、働き方推進法による労基法36条改正以前は、労働時間延長に法的拘束力のある上限が設定されていなかったこともあり、際限なく労働時間が長くなる、俗に「三六協定青天井」と言われる状況が広くみられていた。

 

 「働き方改革」による労働時間延長の上限規定

 次は働き方推進法により新設された労働基準法第36条第4項である。

 

第三十六条  

  4  前項の限度時間〔労働時間を延長できる限度〕は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。 

 

 具体的な数値は法律の条文中には書かず、政令や省令で別に定めるのは、日本ではよく見られる立法手法である。それまでは第36条ただし書きで坑内労働について1日2時間と延長の上限の具体的数値を示していたのを除き、第36条には具体的数値は書かれなかった。そして行政機関による助言指導の根拠として、1998(平成10)年の「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」注25で「360時間」を規定していたが(ただし、業種や場合によってさらに上回る数値になっている。これは法改正後も同じ)、違反しても罰則の適用はなかった注26。改正により労働省告示中の数値が法律の条文中に書き込まれたうえ罰則の適用対象となり、従来とは比較にならない強制力を持つことになった。

 働き方推進法による労基法36条改正で上限が法定されることは、多少の労働時間短縮効果はあるといえる。2024年4月に運輸労働者についての猶予期間が満了し、残業規制が強まるので運転手不足から輸送量が減少し、大量の滞貨や運賃高騰が懸念されているようである。この場合の時間外労働の上限は960時間である。所定労働時間は約2000時間(最大で40時間かける52週)だから、その半分に相当する程度に制限するだけで激変だというのである。運輸労働者の時間外労働の異常な長さ、労働条件の過酷さは想像を絶するものなのである。注27

 

3 給特法と三六協定

 教育職員の場合の時間外勤務の法的根拠

 2018(平成30)年の働き方推進法による労基法第36条の改正を受けた、2020(令和2)年の業務量管理指針(文部科学省告示)注28と、それを又受けした業務量管理規則(教育委員会規則)による時間外勤務の上限設定(「45時間」「360時間」)は、まことに結構なことのように見える。まさしくそう見せたいがゆえに、「Q&A」はわざわざ働き方推進法から説き起こしてきたのである注29。しかし、公立学校の教育職員に対して、第36条第4項に書かれている三六協定によって延長できる上限の数値を、三六協定未締結の現段階においてそのまま当て嵌めることはできるのかどうか、はっきりさせなければならない。そしてそれを当て嵌めた場合、教育職員の労働時間を短縮する効果があるかどうかについて検討する。

 教育職員の場合の労働時間延長に関する法律上の根拠と、その場合に必要な手続きについて、労働基準法・地方公務員法・給特法の規定内容を一覧する。まず労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合」と、第3項の「公務のために臨時の必要がある場合」である。第1項はさきほど14頁で引用したとおりである。公務員(一般職の国家公務員と一般職の地方公務員)だけに関係するのが第3項である。

 

第三十三条

  3 公務のために臨時の必要がある場合においては、第一項の規定にかかわらず、官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く。)に従事する国家公務員及び地方公務員については、第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。 

 

 括弧内に例外が規定されている。学校教育法上の学校は、「別表第一」の「十二 教育、研究又は調査の事業」に該当するので、公立学校に勤務する公務員はこの事由による労働時間延長の対象にはならない。(「国立学校」と呼ばれる学校は「国立大学法人」立の学校であり、国立ではない。教職員は国家公務員ではない。)ところが、給特法第5条は、地方公務員法第58条を「読み替え」することによって、学校に勤務する地方公務員すなわち教育職員を除外する労働基準法第33条第3項を「読み替え」して無効にし(裏の裏は表)、労働時間を延長することができることにした。注30(下に示す)

 この地公法第58条第3項によって読み替えられた労働基準法第33条第3項の読み替えによるものが、給特法のもとで超勤政令第2項が列挙する「超勤4項目」のうちの、「イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務」「ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務」「ハ 職員会議に関する業務」である。そして、労働基準法第33条第1項によるものが、「ニ 非常災害の場合」である。

 ただし、内容的に見ると少々おかしなところがある。「イ 校外実習」「ロ 学校行事」は、年間計画によるものであり、たとえ年に一度のものであっても「臨時」というわけではない。「ハ 職員会議」は唐突に思える。「ニ 非常災害」は、第33条第1項中に「行政官庁の許可を受けて」とあるのに、人事委員会の許可を受ける手続きは無視されている。給特法と超勤政令の制定時に苦し紛れで作った規定のようだ。(以上は、2019〔令和1〕年の改正後の現行の給特法第7条の条文で労働基準法第33条第3項の読み替えを示したが、改正前の第7条でも同内容である。)

 そして、給特法第7条が読み替える地方公務員法第58条第3項により、労働基準法第37条が適用除外されるので、延長された労働時間に対する「割増賃金」の支払いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 法律の条文は、総務省が運用するウェブサイト「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)から引用する。なお、「e-Gov法令検索」は、憲法・法律のほか、政令・施行規則(省令)も検索可能。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 https://www.pref.ibaraki.jp/somu/somu/hosei/cont/reiki_int/reiki_honbun/o4001169001.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 https://gakkoukaikaku.jimdofree.com/

4 https://drive.google.com/file/d/1GYty0JbWKofTS0tGCZFluo4AE2y7hAZt/view

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5 内田良他編『教師のブラック残業』2018年、学陽書房、第2章

 

6 髙橋哲さとし『聖職と労働のあいだ 「教員の働き方改革」への法理論』2022年、岩波書店、140-42頁

7 『法学セミナー』no.773、2019年6月号、日本評論社、25頁

8 https://www.change.org/kyoushi-no-baton

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9 「茨城教育研究所通信」第27号、2016年、https://ibakk.web.fc2.com/27tuusin.pdf

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10 「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1412985.htm この部会を担当したのは文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課であり、議事録・配布文書などはすべて、https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/giji_list/index.htm に掲載されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/giji_list/index.htm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/041/siryo/attach/1416846.htm

13 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/041/siryo/attach/1417145.htm

 

14 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/041/giji_list/index.htm に全部の議事録と配布資料が掲載されている。議事録は、発言の一部を検索欄に入力すれば容易に該当箇所を表示できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15 「茨城教育研究所通信」第28号、2018年、2頁、

https://ibakk.web.fc2.com/tuusin29gou201810.pdf

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

16 https://www.mext.go.jp/content/20220929-mxt_syoto01-100002245_01.pdf

 

17 https://www.mext.go.jp/content/20210629-mxt_syoto01-000122836_1.pdf

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

18 https://www.pref.ibaraki.jp/somu/somu/hosei/cont/reiki_int/reiki_honbun/o4002054001.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

19 ブラウザで表示した状態でも、ダウンロードしたpdfをオープンした状態でも、検索 find 機能で「意識が希薄化」などと入力すれば、該当箇所を簡単に捜せる。「Q&A」がコピーした「答申」は次のとおり。

 学校現場において,「自発的勤務」は,教師自らがその判断で行うものであって,勤務時間管理の対象にはならないという誤解が生じているのも事実である。そして,この誤解のために「自発的勤務」の時間も含めた勤務時間管理の意識を希薄化させ,その結果,時間外勤務の縮減に向けた取組がなかなか進まないという点も実態として認めざるを得ない。    (44−45頁)

 教師の勤務時間を管理するという意識が,各学校の管理職や教師の服務監督を行う市区町村教育委員会等において希薄だった。  (12頁)

 不幸にも過労死等が生じてしまった場合に,勤務実態が把握されていなかったことをもって,公務災害の認定に非常に多くの時間がかかり,遺族又は家族を一層苦しめてしまうような事例も報告されている。  (8頁)

20 茨城県教育委員会「茨城県県立学校の働き方改革のためのガイドライン」2021(令和3)年、https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/wp-content/uploads/2023/05/hatarakikata-kaikaku2.pdf

21 法案条文:https://www.mhlw.go.jp/content/000307765.pdf、概要:https://www.mhlw.go.jp/content/000332869.pdf、法律新旧対照条文:https://www.mhlw.go.jp/content/000307766.pdf

 

22 働き方推進法全体の問題点については、久原穏くはら・やすし『「働き方改革」の嘘 誰が得をして、誰が苦しむのか』2018年、集英社新書。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

23 「茨城教育研究所通信」第29号、2018年、30頁、https://ibakk.web.fc2.com/tuusin29gou201810.pdf

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

24 荒木尚志たかし『労働法〔第5版〕』2022年、有斐閣、188頁。県立学校でいうと、数十校一括でなく各学校単位。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

25 平成10年労働省告示第154号、時間外労働の限度に関する基準、https://jsite.mhlw.go.jp/kagoshima-roudoukyoku/var/rev0/0111/0649/201681093923.pdf

26 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000123090.pdf

 

27 労働基準法第三六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針 https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf

28 注16を見よ、https://www.mext.go.jp/content/20220929-mxt_syoto01-100002245_01.pdf

29 注17を見よ、https://www.mext.go.jp/content/20210629-mxt_syoto01-000122836_1.pdf


 

30  給特法第5条は「読み替え」る語句をひたすら連ねているだけなので、それだけ見るとまったく意味がわからない。そこで対象条文を引用したうえで、「読み替え」前と「読み替え」後を全部書き記すとA4版3ページにおよぶ膨大な量になる。そのうち、給特法第5条によって読み替えられた地方公務員法第58条第3項・第4項が適用除外ないし読み替える労働基準法の条項の一覧表を次に示す。

 ここでは労働基準法第33条第3項に関する部分だけを、「読み替え」が入れ子になっている複文構造がわかるようにインデントをほどこして示す。見え消し線を引いたのが本来の規定で、そのあとのゴシック体が、あたかも改正したかのごとくにするという「読み替え」部分である。

   教育職員については、

      地方公務員法第五十八条第三項本文中〔……

         同法〔労働基準法〕第三十三条第三項中

公務のために臨時の必要がある場合においては、第一項の規定にかかわらず、官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く。)別表第一第十二号に掲げる事業に従事する国家公務員及び地方公務員については、第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる労働させることができる。この場合において、公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない

         と読み替えて同法〔労働基準法〕第三十二条の四第一項から第三項まで及び第三十三条第三項の規定を適用する

     〔……〕とする。

   と読み替えて同条〔地方公務員法第五十八条〕第三項及び第四項の規定を適用するものとする。

(本文つづき)

 

 

 三六協定未締結の場合の上限規制という背理

 教育職員について、最長労働時間を延長するもうひとつの方法が、労働基準法第36条による労使協定 の締結である。給特法第7条は教育職員について労働基準法第36条を適用しないとは規定していない。文部科学省初等中等教育局は、地方公務員法や給特法が労働基準法第36条を適用除外していないことは聞き知っているようであるが、教育職員に対しては実際上適用されることはないと、さしたる根拠もなく漫然と考えているようである。今回、それを行政文書で強く匂わせた。業務量管理指針の第1章第2節で、こう述べる。

 

第2節 対象の範囲

(2) 本指針に掲げる措置は、給特法第2条第2項に規定する教育職員全てを対象とするものとする。なお、それ以外の職員(事務職員、学校栄養職員等)については、36協定における時間外労働の限度時間が適用されることに留意すべきである。

 

 曖昧な言い方で読み手を勘違いさせようとしている。教育職員については36協定における時間外労働の限度時間が適用されない、と言ったも同然である。これを読んだ教育委員会の職員や学校の管理職員は、教育職員に対しては労働基準法第36条は適用除外されている、と勘違いさせられるだろう。由々しきことである。これについては、このあと触れることにし、今ここでは、教育職員については労働基準法第36条による労働時間延長のための手続きが取られていないことを前提として検討を続ける。

 初等中等教育局は、三六協定が締結された場合の「労働時間を延長して労働させることができる時間」(第36条第1項)として第36条第4項に明記された数値である「45時間」「360時間」だけを抜き出して、それを業務量管理指針において、1か月あたりならびに1年あたりの時間外勤務の上限として提示したのである。数学の問題集で勉強している中学生か高校生が、自分で問題を解くのではなく、巻末もしくは綴込別冊の模範解答を見て、途中の計算手続きを全部無視して結果の数値だけを写したようなものだ。

 しかも別の問題の答えを写したのである。というのは、そもそもこの「45時間」「360時間」は、協定を締結する段階において、延長時間数の当否を事前に判定するための数値である。それを業務量管理指針は、実績労働時間の当否を事後に判定するための数値として示しているのである。まったく趣旨が違うのだから、話にもならないというほかない。

 いずれにしても、三六協定が存在しない以上は、労基法第36条第4項が規定する数値を、教育職員に対して効力あるものとして提示することはできない。業務量管理指針の規定には何の根拠理由も存しないことが明らかである。

 

 教育職員における三六協定締結の可能性

 初等中等教育局は、教育職員については三六協定の可能性を度外視しているのであるが、この点について検討しておく。三六協定を締結することを選択するかどうかは別問題として、法的可能性について検討する。

 労働基準法第36条の規定により、教育職員の側から交渉が提起されれば、使用者はこれに応じることが義務付けられている。さらに地方公務員法第55条は、使用者(事業所としての学校においては校長)は職員団体(教職員組合分会)から交渉の申し入れがあったときにはこれに応じなければならないこと、交渉は勤務時間内におこなうこともできること、職員団体は使用者との間で「書面による協定」を締結することができることを規定している。三六協定が締結される可能性はある。

 

(交渉) 

第五十五条 地方公共団体の当局は、登録を受けた職員団体から、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに附帯して、社交的又は厚生的活動を含む適法な活動に係る事項に関し、適法な交渉の申入れがあつた場合においては、その申入れに応ずべき地位に立つものとする。 

  8   本条に規定する適法な交渉は、勤務時間中においても行なうことができる。 

  9   職員団体は、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程にてい触しない限りにおいて、当該地方公共団体の当局と書面による協定を結ぶことができる

 

 実際に「当該事業場」において、つまり各学校ごとに校長と教職員の過半数代表とが交渉する場面を考えてみる。労働基準法第36条第2項が規定する事項について話し合い、妥結しなければ物別れに終わるが、妥結した場合には、その内容を書面で都道府県人事委員会に届け出ることになる。

 

労働基準法 第三十六条

  2 前項の協定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。 

一 この条〔第36条全体〕の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができることとされる労働者の範囲 

二 対象期間(この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、一年間に限るものとする。第四号及び第六項第三号において同じ。) 

三 労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる場合

四 対象期間における一日、一箇月及び一年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数

五 労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項 

 

 三六協定の届出書の書式は、労働基準法第36条第2項第5号にいう厚生労働省令である「労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)」で定められている。注31

 都道府県立学校の場合は、労働基準法施行規則の届出書(様式第九号)に記入し、現業職員であれば各労働基準監督署長、その他の教育職・行政職であれば「〇〇都道府県人事委員会委員長殿」を宛名として提出することになる。注32 茨城県の場合、県庁の知事部局の行政職の職員については茨城県総務部人事課が、県立高校の行政職の職員については茨城県教育委員会高校教育課が、それぞれとりまとめて茨城県人事委員会に提出している。県立高校の教育職員に関する三六協定の提出事例はまだないが、茨城県人事委員会は、今後提出されれば受理するとしている。

 なお、様式第九号の裏面の「記載心得」には、次のような注意書きがある。

 

労働者の過半数を代表する者は、労働基準法施行規則第6条の2第1項の規定により、労働基準法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でなく、かつ同法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。これらの要件を満たさない場合には、有効な協定とはならないことに留意すること。

 

 学校では、衛生委員会の労働者側委員を、管理職員も加入する私的な親睦団体の幹事が兼任したり、「校務分掌」に関連づけたりする違法な取り扱い例がある。三六協定締結前の交渉で同様のことをすると、ただちに協定そのものが無効になる。

 三六協定の締結は、教職員の過半数代表にとっても責任の重い、たいへんな作業であるが、校長は尚更である。「所属職員を監督する」(学校教育法第37条第4項・第62条)という使用者としての職務を校長が実際に遂行するのは、年度末から年度はじめにかけての定期人事異動にかんする業務くらいで(本来の意味での人事権はないから、実際には任命権者である茨城県教育委員会教育庁との間の取り継ぎ程度)、ほとんどの「監督」業務を教頭に執行させている。「校務」のほうも同様で、権限も実務もそのほとんどを教頭や事務長に移譲してしまっているので、結局のところ一年中ほとんど何もすることがない状態になっている。三六協定締結は、「監督」業務をほとんど果たしてこなかった校長が、はじめてみずからの存在意義を見出し、生き甲斐を感じる絶好の機会となるだろう。

 労働基準法第36条による労働時間延長について考えるとなると、給特法第3条第2項が、労働基準法第37条にいう割増賃金としての時間外勤務手当・休日勤務手当は支給しないと規定していることが問題となる。このことについて、労働法学者の萬井隆令よろい・たかよしは次のようにいう。注33

 

 労働は常に有償であり、行われた労働に対しては対価を支払わねばならない。ある事態に適用すべき条文がない(法律が欠缺けんけつしている)場合は、司法機関は社会良識や条理にも依拠して当該紛争を公正に解決すべき法解釈をすることが求められる。給特法に関していえば、37条の適用除外は、限定4項目に係る超勤を想定したもので、通常業務に係る36協定による超勤まで含むものではない。36協定による場合には37条が適用されると解釈して初めて給特法が「勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」とする憲法27条2項に適合することになる。そのように適切に解釈され、運用されたならば、36協定締結が不可欠となり、それは、過大な超勤に対する手続的な障壁の機能を持つであろう。また財政的にも一定の歯止めがかかる。

 

 労働基準法第37条が適用除外となっているのに、その割増賃金の原因となる協定(三六協定)について規定する第36条が適用除外となっていないのは、矛盾している。三六協定に基づいて時間外勤務をしたのに割増賃金が支払われないというのでは、著しく正義に反する。しかも、労働基準法それ自体が命じているのではなく、給特法第7条による労働基準法第37条の適用除外と、そのうえでの給特法第3条第2項の規定によってそうなっているのである。この矛盾と不正義は、文部科学省が考えているように労働基準法第36条を偽りの「適用除外」扱いすることによってではなく、萬井隆令のいうように労働基準法第37条の適用によって正すべきである。

 

 労働基準法第37条の「割増賃金」についての誤解

 ここで、労働基準法第37条の規定の意味について確認しなければならない。

 

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし〈以下略〉

 

 文面から明らかなように、「割増賃金」とは時間外労働に対する賃金に、さらに追加して支払われる分の賃金のことである。たとえば、日割計算した賃金が日額1万円だとすると、2割5分の「割増賃金」は2500円である。合計した1万2500円ではない。労働省の通達もはっきりそう言う。注35

 

37条が割増賃金の支払を定めているのは当然に通常の労働時間に対する賃金を支払うべきことを前提とするものであるから、月給又は日給の場合であっても、時間外労働に対する通常の賃金を支払わねばならないことはいうまでもない。

 

 給特法第5条が、地方公務員法第58条第3項を読み替えることで労働基準法第37条を適用除外していることの意味を再確認する必要がある。

 給特法は注36、「教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限る」(第6条第1項)とし、「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。」(第3条第2項)とするのだが、この第3条第2項の規定は、第5条による労働基準法第37条の適用除外に対応するものである。

 労基法第37条の適用除外によっては、割増賃金の分の支払義務が免除されるだけである。給特法第3条第2項が支払わないとする「時間外勤務手当及び休日勤務手当」とは、労基法第37条にいう「割増賃金」に相当するものである。給特法第3条第2項の「時間外勤務手当及び休日勤務手当」は、時間外労働に対する賃金分を含むもの(上の例で言うと、1万円を含む1万2500円)ではなく、「割増賃金」相当分(2500円)だけである。使用者は、時間外労働に対する賃金分(1万円)の支払義務を免れることはない。

 しかも、「37条の適用除外は、限定4項目に係る超勤を想定したもので、通常業務に係る三六協定による超勤まで含むものではない」(萬井隆令)。三六協定による時間外勤務の場合は、使用者は時間外勤務に対する賃金分と「割増賃金」(合計1万2500円)を支払わなければならないのである。

 さらにいえば、三六協定によらずに現におこなわれている、「限定4項目」以外の時間外労働、すなわちほとんどの時間外労働については、どうか。荒木尚志はいう。注37

 

労基法37条は33条や36条によって適法に時間外労働を行った場合についてしか規定していないが、違法に時間外労働を行った場合についても当然に割増賃金支払義務が発生すると解されている。

 

 教育職員の時間外勤務についての給特法による特例は、「限定4項目」について「割増賃金」を支払わないということだけである。通常賃金の支払いは免除されない。そして、「限定4項目」以外については、通常賃金と「割増賃金」との両方について、給特法は支払義務を免除していない。時間外勤務が、三六協定により適法におこなわれる場合はもちろんであるが、漫然と違法に時間外勤務をさせた場合にも、使用者には通常賃金と割増賃金の支払い義務がある。

 労働法学者から見れば当たり前のことなのだが、多くの教育学者はこの点を看過しているようだ。注38「給特法のこれからを考える有志の会」も同様である。

 

4 「在校等時間」という虚偽

 「在校等時間」と労働時間

 文部科学省初等中等教育局は、労基法36条から根拠理由なく抽出した数値(「45時間」「360時間」)を文部科学省令や都道府県条例に埋め込むことで、一応は政府全体の「働き方改革」の流れにあわせる体裁を作った。そのうえで、実際の時間外労働を削減するために努力するのではなく、労働時間の算定方法を改変することで、労働時間の統計上の短縮効果をめざす。そのために捻り出した概念が「在校等時間」である。業務量管理指針注39において初等中等教育局はつぎのように述べる(傍線

 

(1) 本指針における「勤務時間」の考え方

 教育職員は、社会の変化に伴い児童生徒等がますます多様化する中で、語彙、知識、概念がそれぞれ異なる一人一人の児童生徒等の発達の段階に応じて、指導の内容を理解させ、考えさせ、表現させるために、言語や指導方法をその場面ごとに選択しながら、適切なコミュニケーションをとって授業の実施をはじめとした教育活動に当たることが期待されている。このような教育職員の専門性や職務の特徴を踏まえ、また、教育職員が超勤4項目以外の業務を行う時間が長時間化している実態も踏まえると、正規の勤務時間外にこうした業務を行う時間も含めて教育職員が働いている時間を適切に把握することが必要である。 

 このため、教育職員が学校教育活動に関する業務を行っている時間として外形的に把握することができる時間を当該教育職員の「在校等時間」(A)とし、服務監督教育委員会が管理すべき対象とする。具体的には、正規の勤務時間外において超勤4項目以外の業務を行う時間も含めて教育職員が在校している時間(B)を基本とし、当該時間に、以下に掲げるイ及びロの時間を加え、ハ及びニの時間を除いた時間を在校等時間とする。ただし、ハについては、当該教育職員の申告に基づくものとする。 

イ 校外において職務として行う研修への参加や児童生徒等の引率等の職務に従事している時間として服務監督教育委員会が外形的に把握する時間 

ロ 各地方公共団体が定める方法によるテレワーク(情報通信技術を利用して行う事業場外勤務)等の時間 

ハ 正規の勤務時間外に自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間その他業務外の時間 

ニ 休憩時間

 

 意味不明で不適切な用語を用い、ありえない実例も挙げ、おかしな日本語でわざと論理を崩して叙述してあるので、読めば読むほど混乱させられる。

 「イ」の「在校」とは〝学校に在ること〟ではあるが、児童が小学校に、生徒が中学校と高等学校に、入学から卒業までのあいだ学籍があることをいうのが通例で(大学生であれば「在学」)、教員が勤務先の学校で日々働いている状態を「在校」とは、一般的には言わない。そのような意味を載せる辞書もあるが、実際の使用例はない。「在校」しない場合も含めて「在校等」とするもので、先述の「民間企業等」と同様に「等」の用法を間違っている。勤務時間(労働時間)と認めないために、あえて適切でない語を流用したのである。

 「ロ」の「テレワーク」は教員にはありえない。自宅には「地方公共団体が定める方法」による通信環境はない(永久に整備されないだろう)。学校でも自宅でもない場所で教員が「テレワーク」することは到底ありえない。

 「外形的に把握することができる時間」の意味が不明である。内容を度外視するということかと思うと、「ハ」はそうではない。

 「ハ」と「ニ」は、勤務時間外の勤務時間(労働時間)を実際より少なく申告させ、労働時間の統計上の短縮効果をねらうものである。「ハ」は、5節で見るように、教育公務員特例法の規定に反して、職務(「業務」)である「自己研鑽」すなわち「研修」を、職務外(「業務外」)だとするもので違法不当である。

 「ニ」は、実際には勤務していたのに休憩時間である「社内飲食時間」として申告させ、勤務時間を少なく見せる在り来りの労務管理手法の踏襲である。2015(平成27)年12月の過労自殺事件で、労災認定された被災者髙橋まつり(24歳)が、株式会社電通(DENTSU INC.)の労務管理手法として、SNSに具体的に書き残していた。注40

 

 「指揮命令」の強すぎる語感

 「在校等時間」について業務量管理指針より踏み込んだ説明をしている「Q&A」注41を参照する。(「Q&A」からの引用に限り、傍線は原文のもの。)

 

問4 「勤務時間」の概念について、本指針上の「勤務時間」すなわち「在校等時間」は、労働基準法上の「労働時間」とは異なるのか。 

  ○ 地方公務員法上の「勤務時間」は、基本的には労働基準法上の「労働時間」と同義であると考えられますが、厚生労働省が作成した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によれば、労働基準法における「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たるとされています。

   このことから、教師に関しては、校務であったとしても、使用者からの指示に基づかず、所定の勤務時間外にいわゆる「超勤4項目」に該当するもの以外の業務を教師の自発的な判断により行った時間は、労働基準法上の「労働時間」には含まれないものと考えられます。

 

 「このことから」以下は(用語「校務」の誤用注42があるので、意味を取りにくいが)、「Q&A」問1において「給特法の仕組みにより、所定の勤務時間外に行われる「超勤4項目」以外の業務は教師が自らの判断で自発的に業務を行っているものと整理されます」注43 と言っていたのと同じ趣旨である。そして、さらに踏み込んで、そのようなものは「労働基準法上の『労働時間』には含まれない」と断言する。労働時間から除外するというのは、その時間については賃金支払いの対象としないだけでなく、労災補償(公務災害補償)の対象としないことをも意味する。たいへんなことである。

 その根拠として、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)」注44(以下、労働時間ガイドライン)を挙げる。労働時間ガイドラインの記述は次のとおりである。

 

 労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。〔アイウ 略〕

 ただし、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間については労働時間として取り扱うこと。 

 なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。 

 

 強い語感をもつ「指揮命令」の出所は、裁判の判例である。労働時間ガイドラインのリーフレットに、最高裁判所判決の事件名「三菱重工長崎造船所事件」が記されている。労働法学の教科書や判例集で必ずとりあげられる判決である。注4

 上告を受けた最高裁判所は、ほとんどの場合「決定」によって上告を棄却(民事訴訟法第317条)する。この事件のように「判決」によって上告を棄却(民事訴訟法第319条)するのは稀である。「判決」の場合は、「理由」において判断の基準とそれへの当て嵌めが具体的に記される。

 三菱重工長崎造船所事件判決は、「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であり、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」と、判断基準を示している。

 文部科学省初等中等教育局は、その「指揮命令」とは、使用者が労働者に対して、個々の業務にとりかかる前に、その都度、業務の全部にわたり、細部に及ぶ、具体的な指示を与えることである、と解釈するようで、いかにも素人臭い誤読である。というより、初等中等教育局は、そんな単純な話ではなく、労働時間ガイドラインがいうように「客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものである」ことに薄々は気づいているものの、世を欺くためにあえて空惚けて、教員に対してはいかなる場合にもそういう命令はしてない(実際には、命令していても、していないことにする)のであるから、指揮命令下に置いていることには絶対にならない、ゆえに労働時間にはあたらない、と強弁しているのである。これでは、判決文をただしく解釈することはできない。

 文部科学省は、単純化した解釈を押し通すために、これまでどのような道具立てを準備してきたか、そして今後のためにどのような手を打ったのかを検討する。

 

 「勤務させる」と「勤務を命ずる」の違い

 「労働時間」の定義については、労働法学や判例には「純粋指揮命令下説・客観説」「限定指揮命令下説・業務性補充基準説」「限定指揮命令下説・支配拘束下業務性補充基準説」「2分説」「職務遂行必要性基準説」などさまざまの説があるが注46、本稿は、荒木尚志が提唱する「相補的二要件説」注47によることにする。

 

労働時間概念は使用者の指揮命令に代表される使用者の関与要件(労基法32条の労働「させ」たといえるか)と、活動内容(職務性)要件(当該時間が「労働」といえるか)という二要件から構成され〔る。〕

労基法上の労働時間とは、「使用者の関与の下で、労働者が職務を遂行している時間」をいい、その使用者の関与の程度と職務性の程度を相互補完的に把握して、客観的に「労働させ」たと評価できる程度に達していることを要する。注48

 

 給特法と、超勤政令・給特条例とでは文言の違いがあったことが想起される。それらと、労働基準法第32条をならべて比較してみる。

 

労働基準法:第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

  2   使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

 

給特法:第六条     教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限る

 

超勤政令:第二項    教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限る

 

給特条例:第7条第2項 教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限る

 

 公務員については、「労働」を「勤務」に言い換えるので、「勤務させる」は「労働させる」と同じ意味である。給特法は、労働基準法と同じく、「勤務させる」(=「労働させる」)という言い方である。ところが、超勤政令と給特条例は、「勤務させる」を、あえて「勤務を命ずる」に言い換えた。文部省が当時、政令案を作成し、地方自治体に条例の雛形を示すにあたり、ある意図をもってこうしたのである。時間外勤務の労働時間性は、最近になってはじめて問題になったわけではなく、給特法制定当時すでに大問題になっていた。というより大問題になっている状況に対処し、一挙に法的解決に持ち込もうとして給特法案を作成したのである。とはいっても、法律の条文を、労働基準法とはことなった文言にすれば内閣法制局の審査は通らないから、政令と条例の雛形だけに手をつけたということだろう。

 こうして、使用者が労働者に対して、個々の業務にとりかかる前に、その都度、業務の全部にわたり細部に及ぶ具体的な指示を与えていないのだから、「勤務を命ずる」ことはしていないと強弁するのに都合のよい言い換えが実現した。事実上の法律条文の改竄である。しかし、このような見え透いた手口が通用するのは、文部科学省とそれが介入する地方教育行政の内部に限られる。労働法学はもちろん、裁判所もこのような極端な解釈はとらない。「三菱重工長崎造船所事件」判決は、時として「純粋指揮命令下説」の典型例とされることもあるが、そうではない。

 

〔二〕……(四)被上告人らは、昭和六〇年六月一日から同月三〇日までの間、就業規則所定の始業時刻に作業服及び保護具等の装着を開始して準備体操場に赴いた、というのであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。

 三 右事実関係によれば、被上告人らは、上告人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等を装着するよう義務付けられ、右装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされていたというのであるから、右二(四)の行為は、上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができる

 

 最高裁判所は、使用者の勤務命令それ自体の有無だけを問題にしているのではなく、使用者の命令に従った労働者の行為が、まさに準備行為として「労働」とみなされるものであったことをもって、「指揮命令下に置かれたものと評価」したのである。

 先に見た、中教審の「初等中等教育分科会 学校における働き方改革特別部会」の第3回の会議(2017〔平成29〕年8月29日)と、「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」の第10回会合(2006〔平成18〕年12月11日)における、川田琢之の発言はこうした判例動向をふまえたものだった。

 

 公務災害補償制度における「支配管理下」認定

 時間外労働に対する未払い賃金の支払いを求めた訴訟ではないが、同様に使用者の「指揮命令」の有無が問われた行政訴訟における裁判所の判断を見てみる。

 茨城県立高校の教諭が、休日労働の際の出勤途上の交通事故による障害について、地方公務員災害補償基金による公務災害補償を求めた裁判で、任命権者の「支配管理下」にあったか否かが争点となった。(通常所定業務〔日常業務〕のための出退勤途上の事故は「公務災害」中の「通勤災害」類型に分類され、補償内容が少し異なるが、休日出勤など所定外業務のための出退勤途上の事故は、「通勤災害」類型には分類されない。)公務災害補償制度は、国の特殊法人である地方公務員災害補償基金が運用している。総務省自治行政局公務員部を上級行政庁とする基金本部のもとで、認定や補償などの事務は都道府県知事を支部長とする地方公務員災害補償金支部として、都道府県の総務部人事課および教育委員会の福利厚生担当課等が担当している。

 「公務上の災害」として認定するうえでは、「公務遂行性」と「公務起因性」が要件とされる。この件では、休日の土曜日に校内で実施する「進研模試」の監督業務のため、出勤途上の交通事故で負傷した茨城県立日立第二高等学校の教諭の災害については、当該業務については校長が勤務を命じていなかったので「公務遂行性」が成立しないとして「公務外の災害」と認定した。

 一審の水戸地方裁判所は、原告の教諭について「公務遂行性」を認めず、いっほうで、被告の地方公務員災害補償基金茨城県支部長による、模擬試験はベネッセコーポレーションの主催であるから「公務」とはいえないとの主張も認めなかったが、原処分の違法性は立証されないとして原告の請求を棄却した(原告敗訴)。二審の東京高等裁判所は、一審判決を取り消したうえで、公務外認定処分を取り消した(控訴人=一審原告勝訴、被控訴人地公災基金茨城県支部長の上告受理申立て棄却により確定)。

 二審判決49(次頁)は、「公務遂行性」の有無については、「任命権者の当該任務への関与の有無、程度及び当該任務の実態の両面から判断する」との基準を示したうえで、「任命権者である学校長の支配管理下にある業務であると認めるのが相当である」とした。「公務遂行性」を、使用者の「関与」と労働の「実態」の両面から判断するというのは、労働時間に関する「相補的二要件説」のいうところと同じ観点である。この2015年の東京高裁の判決の論理や観点は、別制度に関する判決ではあるが、2000年の「三菱重工長崎造船所事件」における最高裁の論理や観点を踏襲している。

 労災認定(公務災害認定)においては、労働時間性の該当非該当が業務遂行性(公務遂行性)の有無として認定要件となるが、もうひとつ業務起因性(公務起因性)すなわち業務(公務)が心身に与える過重負荷の程度を判断するうえで、労働時間の長短が認定要件となる。この事件では、公務遂行性の充足根拠として模試監督業務の労働時間性が問われたが、出退勤時の交通事故であるので公務起因性の観点での労働時間性は問題にならなかった。

  なお、判決中に「任命権者である校長」とあるのは、いささか不正確である。任命権者は茨城県教育委員会であり、校長は所属長である。しかし、校長による職務命令はすなわち任命権者による職務命令(=使用者による命令)とみなされるのであるから、論旨そのものには影響はない。注49

 

 

5 自己申告方式による労働時間改竄

 職務としての「研究と修養」

 本稿4節で、業務量管理指針注50が「在校等時間」を算定するうえで、「在校している時間」から控除すべきものとする標的は「自己研鑽」と「休憩時間」であると指摘した。「Q&A」注51は、この「自己研鑽」について、相当の執着をもって言及している。

 

問9 校外での業務のうち「外形的に把握する」時間と整理される「職務として行う研修や児童生徒等の引率等」とはどのような業務か。

○ 職務として行う研修には、初任者研修や中堅教諭等資質向上研修といった法定研修のほか、都道府県教育委員会主催の研修等、職務命令により参加する各種の研修が含まれます。ただし、職務専念義務を免除されて行う活動は、業務として整理できないものであるからこそ職務専念義務を免除するものであるため、いわゆる職専免研修は、ここでいう「職務として行う研修」には含まれません。

問11 自己申告により「在校等時間」には含まれない「正規の勤務時間外に自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間」とは、具体的に何を指すのか。 

○ 具体的には、例えば、所定の勤務時間外に、教師が幅広くその専門性や教養を高めるために学術書や専門書を読んだり、教科に関する論文を執筆したり、教科指導や生徒指導に係る自主的な研究会に参加したり、自らの資質を高めるために資格試験のための勉強を行ったりする時間のようなものを想定しています。

問12 自己申告により「在校等時間」には含まれない「その他業務外の時間」とは、具体的に何を指すのか。 

○ 例えば、問11で示した時間のほか、朝早めに出勤して新聞を読んだり読書をしたりする時間や、所定の勤務時間終了後の夕食の時間、学校内で実施されるPTA活動に校務としてではなく参加している時間、地域住民等としての立場で学校で行われる地域活動に参加している時間等が考えられます。

問13 自宅等に持ち帰って業務を行った場合、その時間は「在校等時間」に含まれるのか。 

○ いわゆる「持ち帰り」の時間については「在校等時間」には含まれません。ただし、自宅等で行う業務であっても、各地方公共団体で定める方法によるテレワーク、在宅勤務等によるものについては、「在校等時間」に含まれます。

 

 業務量管理指針で「在校している時間」から控除すべきものとされていた「ハ」「ニ」に加えて、「Q&A」は、非現実的なものも含め、あれこれの〝実例〟を手当たり次第に脈絡もなく寄せ集めて雑然と並べたてた。「学術書・専門書」・「論文執筆」・「自主的な研究会」・「勉強」など、現状ではとてもそんなことをする余裕はないのだから、ご心配には及ばないとは思うが、ここでこれらを列挙する文部科学省初等中等教育局の役人は、業務の整理削減を進めてゆくゆくは教育職員が勤務時間内にこのようなことができるようにしたい、などと思っているのではない。それどころか、それらに対する強烈な敵意すら発散させている。

 「新聞読書」が、「夕食」や「PTA」のレクリエーション(?)、「地域活動」(ひょっとして「地域クラブ活動」の指導員か?)などと同列というのもおかしな話であるが、勤務時間外の勤務中(=「在校中」)に新聞や本など読もうものなら、仕事をサボっていると看做すというのである。どうしてこのような支離滅裂な〝実例集〟を作るのか。所定労働時間内(所定勤務時間内)に収まりきれない業務、すなわち授業の準備(「教材研究」)その他の授業関連の業務、さらに「職務命令により参加する各種の研修」ではない研修を、時間外労働(時間外勤務)から排除するためである。それは、外見上の労働時間を削減しなければならないという、当今の時流によって余儀なくされているのでもあるが、ここ50年以上に及ぶ初等中等教育局の宿痾ともいうべき「研修」排除抑圧方針によるものである。

 「自己研鑽」は、法令には登場しない言葉である。すでに教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)に、適した規定があるのだから、こんなものを仰々しく持ち出す必要はない。

 

(研修)

第二十一条 教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。

(研修の機会)

第二十二条 教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない。

  2   教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修を行うことができる。 

                 

 2014(平成26)年の改正以前はそれぞれ第19条と第20条だったこの2か条こそ、教育公務員特例法が規定する「研究と修養」略して「研修」の原型である。もちろん、教育公務員以外の公務員、それどころか営利企業の従業員であっても、研修というものはある。しかし、教育公務員特例法が規定する「研究と修養」は、教育公務員が「その職責を遂行するため」のものである。そこで言われる「職責」は、給特法第1条にいうところの「公立の義務教育諸学校等の教育職員の職務と勤務態様の特殊性」の根拠のひとつでもある。

 そして教育公務員は、「絶えず研究と修養に努めなければならない」というのであるから、その「研究と修養」は、「職務」でないはずはない。もちろん、「絶えず」というのは、1日24時間・1年365日にわたりずっと続けるという意味ではない。「職務」を遂行する時間、つまり労働時間(勤務時間)において機会を確保し、日々「研究と修養」に努めなければならないというのである。そして第22条第1項は、教育行政当局に対して「研究と修養」の「機会」確保のための施策を命ずる。すなわち研修を「与える」のではなく、その機会が「与えられなければならない」のである。

 第22条第2項は「勤務場所を離れて」おこなう「研究と修養」のありかたを法定した。「職務」である「研究と修養(研修)」について、「職務専念義務」の免除は必要ない。必要ないというより、「職務」を遂行するのに「職務専念義務」を「免除」することは、論理的にありえない。「Q&A」の問9で、「職務専念義務を免除されて行う活動は、業務として整理できないものであるからこそ職務専念義務を免除するものである」と回答しているが、論点先取の循環論法であり、肝心の「業務として整理できない」理由がまったく説明できていない。

 「本属長」とは校長のことだが、校長が「承認する」のは、「研究と修養(研修)」をおこなうことではない。「研究と修養(研修)」は職務であり、法律によって命令されているのであって、いまさら校長の「承認」など必要ない。それを理由なく「承認」しないとすれば、明らかな違法行為である。校長が「承認する」のは「勤務場所を離れ」ることだけであり、その際の判断基準は「授業に支障」があるか否か、である。それは、たとえ1時間といえども許さないというのものでは到底あり得ない(教員の職務ではない部活動のための生徒引率、さらには「高体連」等の教員だけの他校での打ち合わせなどで「授業に支障」があっても出張を許可していることと矛盾する)。まして、授業終了後の放課後、さらには長期休業日中などであれば、「授業に支障」のあろうはずもないのだから、校長はその点を確認したうえで「勤務場所を離れ」ることを承認すればよい。「授業に支障」以外の恣意的な理由で許可しないことは、許されない。

 

 客観的な労働時間の記録を回避

 「勤務場所を離れて」おこなう研修を違法に許可しない姿勢は、授業関連業務をことごとく「研修」と見做したうえで労働時間から除外する方針につながり、それは勤務時間の記録方法の客観化を否定し恣意性の強いものとする動因になる。こうして、問題のある労働時間把握手法が作られる。

 使用者は、教職員全員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録することを義務づけられている。次は労働時間ガイドラインのリーフレット注52の説明である(ゴシック体は原文の赤文字)。

 

[労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置]

○使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること

(1) 原則的な方法

・ 使用者が、自ら現認することにより確認すること

・ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること

(2) やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合

1  自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと

2  自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること

3  使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないか確認すること

 

 茨城県立学校においては、2022(令和4)年度まで、職員室に設置してあるパソコン上のアプリケーションプログラム(「きんむくん」)で出退勤時刻を記録していた。バーコードリーダーで各自のバーコードにタッチすると出勤・退勤時刻が記録されるもので、そこだけ見ると一応はタイムカード式の「客観的な記録」だった。しかし、月末にまとめて入力することや、日々入力したものをあとで書き換えることができるので、結局のところ「自己申告制」の性質が強かった。

 タイムカード機器は、事業所敷地の出入口に設置すべきものであるが、通勤用の自動車からいちいち降りることになるし、学校の場合は敷地の出入口には設置する適当な箇所がないから、建物玄関に設置するのが妥当である。ところが、常駐するのは教頭くらいで、それ以外の教員は出勤時点・退勤時点に必ず所在・通過するわけではない職員室に設置した。しかも、全教員の退勤前に施錠するので、少なからぬ教員は退勤時刻を入力できない。「きんむくん」は、タイムカードとして機能していなかった。

 ⑴の「原則的な方法」に改めるべきであった。すなわち、校長・副校長・教頭による「現認」、もしくは適切な機器と設置場所による「客観的な記録」方式、あるいはそれらの併用とすべきであった。

 茨城県教育委員会は、2023(令和5)年度に従来の「きんむくん」から「iei-Kintai」に変更した。タブレット型端末かスマートフォンを各人が操作し、茨城県教育委員会が運用する「教育情報ネットワーク」内で動作するアプリケーションソフトウェアにアクセスしてデータを入力する注53。出勤時刻と退勤時刻は、操作の時点で自動入力されるのではなく、教員自身が「保存」ボタンをタッチすることで記録されるのだが、「+」ないし「」ボタンと、「-」ないし「」ボタンを指で操作して画面上の数値を増減させ、実際の出勤時刻と退勤時刻とは無関係に任意の時刻を入力できる。また、本人があとから数値を簡単に訂正変更することもできる。「iei-Kintai」は、数値を恣意的に入力することができないタイムカードのような「客観的な記録」ではなく、完全な「自己申告制」である。

 

 適正な自己申告を阻害する措置

 すでに労働時間を過小申告することが常態化している。業務量管理条例における「1日の在校等時間から所定の勤務時間を除いた時間の1箇月の合計時間 45 時間」が言い渡されていて、これを超過すると「指導」対象となるので、実際の退勤時間ではなくそれより大幅に早い虚偽の退勤時刻を入力しているのである。厚労省の労働時間ガイドラインは、自己申告とした場合について、以下のことを求める。

 

自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること

  特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。

エ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど 使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。

 

 ここで挙げられる「休憩や自主的な研修」「学習等」は、文部科学省初等中等教育局が業務量管理指針で「在校等時間」から除外する2つの例として示した「ハ 自己研鑽」と「ニ 休憩時間」そのものである。初中教育局は、厚生労働省が「労働時間ガイドライン」に典型的な不適正手法として示しておいた手法をそのまま持ち込んだ。「在校等時間」を鍵キー概念とする勤務時間管理手法は、労働時間ガイドラインの指示に違反する。「ウ」の「実態調査」と「エ」の「確認」を実施しなければならない状況である。

 

 現認と客観的な記録を回避する目的

 「客観的な記録」方式も「現認」方式もとらないことには、正当な理由や必然性はない。

 タイムレコーダーは高額な機器ではない。旧来の紙カード方式のほか、指紋認証や顔認証方式のものでも数万円で設置できる。

 

タイムカードは、基本的に使用者側が労働者の勤務時間を管理する目的で労働者に打刻させる記録であるから、特段の事情のない限り、労働者はタイムカードに記録された始業時刻から終業時刻まで業務に従事していたとの事実上の推定が働くので、タイムカードの客観的な記録と異なる労働時間の反論を主張する使用者側には、証拠に基づいて一段と高度の反証が要求されるものということができる(論点体系2注54・149頁も同旨)。注55

 

 いったん出退勤時刻を「現認」するか「客観的な記録」を作成してしまうと、使用者はそこからあれこれの要素、主たるターゲットである授業関連業務と、教員がみずからおこなう「研究と修養(研修)」を除外する作業をしなければならない。それは「外形的にあきらか」でないので、極めて煩雑かつ困難な作業になる。それでも足りないとなれば、虚偽の「校内飲食」を口実にして大量削減を強行しなければならない。なにより、管理職員の判断で割り引いたことが数値上歴然とし、問題になる。

 使用者が、「現認」や「客観的な記録」方式のデータを否定することは、事実上不可能である。だったら「現認」も「客観的な記録」もしなければいいのだ。「現認」と「客観的な記録」を回避しておけば、「自己申告制」のもとでの労働時間統計の操作改竄は簡単である。「iei-Kintai」では「調整」行為はひそかに実行でき、その痕跡も残らない。

 「自己申告制」にしたうえで、時間外勤務の上限の「45時間」を超過すると是正指導の対象になると匂わせておけば、あとは黙っていてもうまい具合に過少申告してもらえる。問題は、時間外勤務の最大要因たる部活動であるが、スポーツ庁・文化庁のガイドラインと茨城県教育委員会のガイドラインによって、平日2時間、休日3時間(程度?)の指導業務は〝公認〟されたわけだから注56、そのように入力してもらえばよい。その分は授業関連の業務と「自己研鑽」で「調整」してもらい、それでも足りなければ「校内飲食」で適当に割り引けば、上限のはずだったのがいつのまにか〝目標〟にすり替わっている「45時間」の超過をかなり抑えることができる。もちろん、「持ち帰り残業」は絶対に認めない。

 

 「在校等時間」の射程は勤務時間外にとどまらない

 退勤時刻の不適切な申告は「適正な自己申告を阻害する措置」による労働時間圧縮策の、ほんの入口にすぎない。初等中等教育局の「在校等時間」概念の射程は、所定労働時間外の業務に限定されない注57。「在校等時間」概念により、所定労働時間内に遂行される業務のうち「自己研鑽」と「休憩」は、内容的・質的には〝職務〟の遂行でも〝公務〟の遂行でもなく、〝職務外〟の行為すなわち〝私的〟行為であると見做され、形式的・量的に実労働時間(実際に労働した時間)から除外される。

 「在校等時間」概念を駆使すると、所定労働時間外の実労働時間だけでなく、所定労働時間内の実労働時間も短縮できる。そして、割り引かれてスカスカになった所定労働時間内の労働時間によって、長時間に及ぶ時間外労働時間を相殺し、総労働時間を少なく見せることができる。

 いずれは、勤務時間内に「教材研究」のために本を開くのは「自己研鑽」であるから勤務とは認められないので実労働時間には算入しない、お茶やコーヒーを啜りながら仕事をするのは「校内飲食」であるから勤務とは認められないので実労働時間には算入しない、という日が来るだろう。

 まさか「授業」それ自体が実労働時間から除外されることはないだろうが(?)、授業の準備(「教材研究」)や「研修」などの授業関連業務がことごとく〝職務外〟の行為だから労働時間にはあたらないとされ注59、さらには授業のない「空き時間」が〝休憩〟扱いされ労働時間から「控除」される注60、悪い夢のような時代はすでに到来したのである。

(終)

2023.6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

31 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000100023

労働基準法第三十六条第一項の規定による届出のための様式第九号〔表面の記入欄と、裏面の記載心得・備考〕

https://elaws.e-gov.go.jp/data/322M40000100023_20230401_504M60000100158/pict/2FH00000036400.pdf

https://elaws.e-gov.go.jp/data/322M40000100023_20230401_504M60000100158/pict/2FH00000036402.pdf

32 https://www.pref.ibaraki.jp/somu/somu/hosei/cont/reiki_int/reiki_honbun/o4001490001.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

33 『法学セミナー』no.773、57頁

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

34 教育職員には適用されないが、参考のために見ておくと、職員の給与に関する条例(昭和27年4月1日茨城県条例第9号)における「時間外勤務手当」は、賃金分と「割増賃金」相当分をあわせたものである。労労働基準法との用語上の齟齬があり問題である。錯誤によるのか故意なのかわからないが、これも勘違いの原因になっている。

 (時間外勤務手当)

 第16条 正規の勤務時間外に勤務することを命ぜられた職員には,正規の勤務時間外に勤務した全時間に対して,勤務1時間につき,第19条に規定する勤務1時間当たりの給与額に正規の勤務時間外に勤務した次に掲げる勤務の区分に応じてそれぞれ100分の125から100分の150までの範囲内で人事委員会規則で定める割合(その勤務が午後10時から翌日の午前5時までの間である場合には,その割合に100分の25を加算した割合)を乗じて得た額を時間外勤務手当として支給する。

35 昭23•3•17基発461号〔昭和23年3月17日、労働省労働基準局長発、第461号通達〕、川口美貴『労働法 第5版』2021年、信山社、306頁より孫引き

36 給特法の第1、3、6条の条文は、本稿はじめに引用。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

37 荒木尚志『労働法〔第5版〕』194頁。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

38 例外は、髙橋哲『聖職と労働のあいだ』196頁

 

 

 

 

 

 

 

 

39 注16を見よ、https://www.mext.go.jp/content/20220929-mxt_syoto01-100002245_01.pdf

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

40 澤路毅彦・千葉卓朗・贄川にえかわ俊『ドキュメント「働き方改革」』2019年、旬報社、122頁

41 注17を見よ、https://www.mext.go.jp/content/20210629-mxt_syoto01-000122836_1.pd

 

 

 

42 「茨城教育研究所通信」第35号、2023年、18–21頁、https://ibakk.web.fc2.com/35tuusin.pdf

43 本稿10頁

44 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html ガイドライン本文のほか、その解説リーフレットも併載されている。

45  最高裁判所第一小法廷、平成12〔2000〕年3月9日判決、平成7年(オ)第2029号「三菱重工長崎造船所事件」

     主文

 本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。

     理由

 上告代理人植松宏嘉の上告理由及び上告代理人古賀野茂見、同木村憲正の上告理由について

 一 労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

 二 原審の確定したところによれば、(一)昭和六〇年六月当時、被上告人らは、上告人〔三菱重工〕に雇用され、長崎造船所において就業していた、(二)右当時、上告人の長崎造船所の就業規則は、被上告人らの所属する一般部門の労働時間を午前八時から正午まで及び午後一時から午後五時まで、休憩時間を正午から午後一時までと定めるとともに、始終業基準として、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始するものと定め、さらに、始終業の勤怠把握基準として、始業の勤怠は更衣を済ませ始業時に体操をすべく所定の場所にいるか否かを基準として判断する旨定めていた、(三)右当時、被上告人らは、上告人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等を装着するよう義務付けられ、右装着を所定の更衣所、控所又は現場控所(以下「更衣所等」という。)において行うものとされており、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就労を拒絶されたりし、また、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があった、(四)被上告人らは、昭和六〇年六月一日から同月三〇日までの間、就業規則所定の始業時刻に作業服及び保護具等の装着を開始して準備体操場に赴いた、というのであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。

 三 右事実関係によれば、被上告人らは、上告人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等を装着するよう義務付けられ、右装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされていたというのであるから、右二(四)の行為は、上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。そして、各被上告人が右二(四)の行為に要した時間がいずれも労働基準法上の労働時間に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

 

46 井上繁規しげき『時間外労働時間の理論と訴訟実務 判例・労災決定・学説にみる類型別判断基準と立証方法』2022年、第一法規、63頁96頁

 

47 荒木尚志『労働時間の法的構造』1991年、有斐閣、258–282頁。

 

48 荒木尚志『労働法〔第5版〕』213–214頁。

 

49 〈抄録〉 東京高等裁判所第14民事部、平成27〔2015〕年3月17日判決、平成22〔2010〕年(行コ)第239号「公務外認定処分取消請求控訴事件」(原審・水戸地方裁判所平成20〔2008〕年(行ウ)第21号)

主文

1 原判決を取り消す。

2 地方公務員災害補償基金茨城県支部長が平成19年1月18日付けで行った、控訴人〔一審原告、日立二高教諭〕の被った災害について公務外であると認定した処分を取り消す。

3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人〔一審被告、地公災基金茨城県支部長〕の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

 2 本件模擬試験の監督業務の公務遂行性について

   〔……〕本件事故当日の平成16年7月10日は土曜日であり、週休日であるから、教育職員にとって、正規の勤務時間には当たらないところ、増山校長が、本件模擬試験の監督について、控訴人ら担当教諭に対し、時間外勤務を明示的に命じた事実は認められないものである。しかしながら、本件模擬試験の実施については、前記認定(原判決引用)のとおり、日立二高の校長等で構成される運営委員会の承認を得たうえで、職員会議で、日立二高の年間行事とすることを承認され、その後に学校長の決裁も受けているものであること、その後、担当期日につき希望期日を考慮して調整がなされたとはいえ、3年生の担任、副担任の教諭については、模擬試験にチーフとして立ち会う教諭を除き、全員が3回監督を行うこととされたうえで、年間行事としての模擬試験の監督の担当者が決定されたことからすると、監督者の決定については、学校長もこれを承認していたものと推認できるというべきであり、学校長は、本模擬試験の実施と監督の分担の決定にあたって、実質的にその手続きに関与し、最終的に決裁を与えていたものと認めるのが相当である。そうであるとすれば、学校長が本件模擬試験の監督を担当する控訴人をはじめとする担当教師に対し、時間外勤務の職務命令を明示的には発していなかったとしても、控訴人としては、進学希望者に対する課外授業として本件模擬試験の監督を担当することについては、これを拒絶することは困難であったと認めるべきである。

 以上のとおりであって、本件模擬試験は、日立二高が主体となって課外授業の一環として実施したというべきものであり、本件模擬試験を実施し、控訴人とその他の3年生の担任、副担任の教諭がその監督を分担することについては、学校長の承認があったといえるものである。そして、控訴人をはじめとする担当教師においては、本件模擬試験の監督の分担を拒絶することは事実上困難な状況にあったといえるものである。そうであるとすれば、控訴人の本件模擬試験の監督業務は、任命権者の当該任務への関与の有無、程度及び当該任務の実態の両面から判断すると、任命権者である学校長の支配管理下にある業務であると認めるのが相当である。

  ……〕被控訴人〔地方公務員災害補償基金茨城県支部長〕は、給特法3条2項によれば、教諭については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しない旨が定められ、教諭は職務の対価としていかなる金員も収受することはゆるされないのであるから、本件模擬試験の監督手当が支給されている以上、本件模擬試験の監督業務が公務ではない旨主張する。

 しかしながら、前記認定事実によれば(原判決引用)、日立二高においては、本件模擬試験の監督を担当した教諭に対して、生徒(保護者)から集めた事務処理費から監督手当や昼食代が支払われていたことが認められるが、これは、週休日に本件模擬試験の監督を担当教諭に課すことはその不利益も小さくないから、日立二高において模擬試験に関する申し合わせ事項を自主的に作成し、それに対する最低限の償いとして、事務処理費の中から監督手当、昼食代を支払うことを決定し、実行してきたものであり、生徒、保護者も、上記不利益を受忍する教諭に対し、上記申し合わせ事項に記載された監督手当、昼食代を支給することを了承していたものであり、給特法3条2項に基づく、時間外手当及び休日勤務手当の支給であるとは認められないので、日立二高において、事務処理費の中から監督手当、昼食代を自主的に支払っていたものにすぎないので、前述した本件模擬試験の監督業務の公務遂行性を左右する事情とはいえないというべきである。

 

50 注16を見よ、https://www.mext.go.jp/content/20220929-mxt_syoto01-100002245_01.pdf

51 注17を見よ、https://www.mext.go.jp/content/20210629-mxt_syoto01-000122836_1.pdf

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

52 注44を見よ、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

53 入力するのは、出勤時刻、退勤時刻のほか、勤務時間内外に従事した業務の種別すなわち、「授業、授業準備、生徒指導、部活動、学校行事、会議、事務処理、外部対応、研修、成績処理」等である。これにより、日ごとの「出勤〔時刻〕、退勤〔時刻〕、補足、勤務時間外の在校等時間、調整、実労時間、時間外勤務時間(出勤日)、同(休日)、同(週休日)、休暇日数」等が一覧表示される。出退勤時刻だけを打刻するタイムカード方式とは異なり、業務の種別まで詳細に入力させるもので、類例のない異常なシステムである。文科省の「教員勤務実態調査」(https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_zaimu01-000029160_2.pdf)を全教員対象に一年中実施するようなものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

54 菅野すげの和夫・安西愈まさる・野川忍編集『論点体系 判例労働法2』2014年、第一法規

55 井上繁規『時間外労働時間の理論と訴訟実務』388頁

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

56 「茨城教育研究所通信」第35号、https://ibakk.web.fc2.com/35tuusin.pdf

 

 

 

 

 

 

57 本稿22頁に引用した業務量管理指針の記述によれば、

在校等時間(A)=在校している時間(B)+(イ+ロ)ー(ハ〔自己研鑽〕+ニ〔休憩〕)

58 教育行政当局のいう「職務」「公務」概念は、錯誤と矛盾に満ちているので、ここでは〝〟で括る。「茨城教育研究所通信」第35号、45頁

 

59 さいたま地方裁判所第5民事部、令和3〔2021〕年10月1日判決、平成30〔2018〕年(行ウ)第33号「未払賃金請求事件」判決文別紙、67頁

 「実際にどの程度の授業準備を行うかについては,各教員の教育的見地からの自主的な判断に委ねられているから,最低限授業準備に必要と認められる限度でこれを認定すべきところ,その時間としては,1コマにつき5分間と認めるのが相当である。他方,教材研究は,授業のための準備という側面があることは否定できないが,教材に対する理解を深めるという自己研さんの側面も多分に含むものであるから,その実施の要否や方法,所要時間については,各教員の教育的観点からなお自主的な判断に委ねられていると言わざるを得ない。〈中略〉校長の指揮命令に基づく業務の従事として認めることはできないから,教材研究に従事した時間は,労働時間には当たらないというべきである。」〔「5分間」は写し間違いではない〕

https://www.call4.jp/file/pdf/202110/2d91e4cd8a04bf11346c98bd6a8ce451.pdf

60 東京高等裁判所第17民事部、令和4〔2022〕年8月25日判決、令和3〔2021〕年(行コ)第270号「未払賃金請求控訴事件」〔注59の事件の控訴審〕判決要旨、5頁

(https://www.call4.jp/file/pdf/202209/68fe4f67d2523740a8effa8ca1bec0f1.pdf)